編集B
今回から、短編小説新人賞の選考結果に「総評」をつけるということで、まずこの新人賞の位置づけについて、改めて投稿者のみなさんにお伝えしておきたいです。
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第219回
第219回短編小説新人賞 総評
今回から、短編小説新人賞の選考結果に「総評」をつけるということで、まずこの新人賞の位置づけについて、改めて投稿者のみなさんにお伝えしておきたいです。
短編小説新人賞は既に220回もの回数を重ねているわけですが、当初は『雑誌Cobalt』上で募集と結果発表を行っていました。雑誌CobaltのWebマガジン化にともなって、第181回以降はWebマガジンCobalt上で募集と結果発表を行っています。
雑誌の時は、入選した作品については作品+選評をセットで紹介していて、最終選考作品については作品は掲載されず、選評だけ読めるスタイルでしたよね。
そう。なので、Webで結果発表するようになってしばらくして、作品も選評も読んでくれる方がすごく増えているんですよね。
手前味噌な言い方になってしまうけれど、選評で取り上げられることには、投稿者の方に広く留意してほしいことが多いから、よりみなさんに読んでもらえるようになったのは、とても嬉しいことだね。
短編小説新人賞の応募規定は、「原稿用紙25枚~30枚」の短編小説。これは、「小説を書いてみよう」と思い立ったビギナーの方にも挑戦しやすいボリューム感であると同時に、編集部としては「プロを輩出するためのステップ」としてこの賞を位置づけています。
「書きたい」方が気軽に挑戦できる場である、というのはこの賞の大きなポイントだと思います。ただ、毎回数百本の力作が集まるこの新人賞で最終選考に残ったり、入選を獲得した人は、もうプロの作家へのステップに足をかけている段階だと捉えていいですよね。
はい。実際に、短編小説新人賞で入選した後、さらに筆力を磨いて「ノベル大賞」に挑戦し、受賞してコバルト・オレンジ文庫でデビューを果たした作家はたくさんいますからね。
その通りです。編集部では短編小説新人賞を、将来うちで書いてくれる書き手を育成する場としてとらえています。選評を公開しているのも、ここで我々が論じていることから、さらに実力を磨くためのヒントを見つけてもらうためと言っていいですね。
それについてちょっと確認したいのですが、短編小説新人賞の選評って、毎回どの作品についてもいろんな意見が出て、その作品を評価する人もいれば、しない人もいますよね。
そうそう。全員の意見を聞くと、編集部内でも言ってることは全員バラバラなんです。
回によりますけれど、入選した作品でも賛否両論の声が上がっていることがあるので、その点に違和感を覚える人がいるかもしれませんね……。
一見厳しい意見にさらされてるように見えるかもしれないけれど、それだけ作品のレベルが高い、ということだと思います。レベルが上がれば上がるほど、編集者が見る目は厳しくなり、アドバイスも具体的になっていく。
「この指摘厳しいな」って思うところがあるかもしれないけれど、実は指摘があまり入らない、いわば欠点がないだけの作品って、読んでいて語るべきところもあまりないんですよね。そして、そういった作品が必ずしも優れているとは限らない。私は、いっぱい指摘を受けていても、突き抜けて光るものがある作品の方が面白いと思うし、そういう作品を評価したいと思っています。
それから、短編小説新人賞の選評は、青木さんと編集部の面々が座談会形式でそれぞれ発言していくスタイルになっているから、トータルで読んでもらえるとわかりやすいかな。実は、入選した作品であっても、その場にいる全員が諸手を挙げて支持していることってほとんどないという。
それはありますね。Aさんがある部分をすごく評価しているのに、Bさんは同じ部分について意味が読み取れないと言っていたりする。これはどう受け取るのがよいでしょうか?
それは、一冊の本にいろんな感想があるのと同じで、ひとつの作品にも読み手によっていろんな読み方が存在するから。私たちはよく「受信する」という言い方をするけれど、その物語に書かれていることやキャラクターに共感した人は、書かれている以上に深いところまで想像で補って読み解いたりする。でも、その物語がピンと来なかった読み手にとっては、同じ内容でも「ちょっとわかりにくい……」と感じてしまったり。
選評をしっかり読み込むとそれがわかるんですよ。「今回Aさんは私の作品が好きみたい。でも、Bさんはよく分からなかったんだな」って。
この場だから言えるんですけれど、選評に書かれてることが全部正解かというと、そうではないんですよね。
はい。全員から「この作品は優れている!」という言葉を引き出す必要はないです。
極論するとね、自分に合わないと思った読み手の意見は無視したってかまわないですよね(笑)。それは自分の都合のいいところだけを抽出するという意味ではなくて、自分の作品を評価してくれた人は、どういったところを評価しているのかに注目して読むといいと思います。
それを意識することで、自分でも気付かなかった自分のウリ、伸ばすべき強みに気付ける可能性があると思う。
選評をさーっと読むだけだと、「いろいろ言われたから、とりあえず指摘された欠点を直そう」っていう考え方になりがちだと思うんですよ。でも、私はそれはやってほしくなくて。「言われた欠点をとりあえず直す」っていう観点で書いても、「欠点はない。でも欠点がないだけ」の作品になってしまって、かえって面白くなくなってしまうと思う。先ほども言いましたが、ツッコミどころがたくさんあっても、面白い作品というのはあります。本当に、小手先で欠点潰しをするのはよくない。もし、指摘されたところを改善しようと思うのなら、先ほどの話に出たように、選評を熟読して、自分の何が評価されて、どこが要改善とされているのかをしっかり分析して、取捨選択してから改善したほうがいいと思いますね。そして、褒められたところは徹底的に伸ばす意識を持ってほしい。
そして何より、書き続けることですね。
はい。投稿者のみなさんには、書いたものに自信を持ってほしい。作品に自信をもって、その上で、選評の内容を客観的に受け止めてもらえると、きっと実力アップに繋がると思います。
最終選考に残るほどの実力を持った方には、きっとこの言葉が響くと思っています。ぜひ、選評をご自身の実力アップのために活用してもらいたいですね。