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選評付き 短編小説新人賞 選評

第220回短編小説新人賞 総論

  • 編集A

    今回は、「主軸を決める」ということについて話し合いたいと思います。今回の候補作は、どれもそこが少し弱かったかなと感じましたので。

  • 編集B

    主軸を決めるというのは、一言で言うなら、「この小説で何を描きたいのか」を自分の中ではっきりさせるということですよね。

  • 青木

    特に短編では、枚数的に一つのテーマしか描けませんからね。そこは書き始める前に決めておいたほうがいいと思います。

  • 編集C

    料理に例えると、わかりやすいかもしれない。長編小説をフルコース料理だとするならば、短編小説は一品料理みたいなものです。使う材料の数は限られてくる。いくらおいしい食材だからといって、牛肉もお刺身もメロンもチョコレートも、全部お鍋に入れてぐつぐつ煮込んでしまっては、おいしい料理にはならないですよね。しかも、盛り付ける器は小さい。だから、何をメインの食材にするか、そして、その食材を最高においしくする付け合わせやソースは何かということを、事前に十分に考えてほしい。「今回は何がメインなのか」を常に意識する必要があります。

  • 青木

    短編に使う要素は、1つか2つあれば十分です。30枚の中では、それ以上は扱いきれない。でも、その1つか2つの要素をどう使うかについては、むしろ死ぬほど考えてほしいですね。

  • 編集C

    例えば、『マトリョーシカの棺桶』は、要素がちょっと多かったし、すべてを関連づけようとして、こじつけっぽくなっていました。食材にも、食べ合わせの悪いものってありますからね。「合うかと思ったけど、なんだかうまくいかないな」という場合は、思いきって削ったほうがいいと思います。

  • 青木

    「面白そう!」と思える要素が思い浮かんだら、それを使いたい気持ちになるのはすごくわかるんです。『真夏の果実たち』なんて、読者が心惹かれる要素がたくさん盛り込まれていましたよね。この作者は、そういう萌えのある要素やシチュエーションを次々と思いつく才能のある方だなと思います。でも、思いついたものを全部入れては、話がまとまらなくなってしまう。10個思い浮かんだとしても、涙を呑んで8個は捨てる、くらいの勇気が必要かなと思います。

  • 編集A

    小説を書く上で、潔さって大事ですよね。でも、惜しがる必要はないです。その捨てた8個の要素を使って、べつの短編を8本書けるかもしれないわけですから。

  • 青木

    そうですね。そして、新たな作品に取り組むときはまた、その1つの要素と向き合って、「どうやったら最高に活かせるか」を死ぬほど考えてみてほしいです。

  • 編集A

    また、料理の話で例えるなら、系統をそろえることも重要だと思います。フレンチを食べるつもりでいたのに中華料理が出てきたら、お客さんは面食らいますから。

  • 編集B

    ジャンルはあらかじめ決めておいたほうがいいですね。シリアスな雰囲気で物語が始まったのに、いつのまにかコメディになって終わったら、やっぱり「あれ?」って首をかしげてしまう。

  • 青木

    『紙ヒコーキは君をのせ、』は、私は最初、爽やか青春ものかと思って読んでいたのですが、ラストはなんだか、ファンタジーっぽい感じになっていました。作者としてはこれこそが書きたかったラストなのかもしれませんが、それなら最初から、そういう方向性の話なんだということを読者にもう少し示しておいたほうがよかったですね。

  • 編集B

    『真夏のキョウキ』も、コメディとしてうまく書けていたんだけど、ラストでなんだか、ヒューマンないい話っぽい方向に流れてしまって、ちょっと惜しかったですね。

  • 青木

    コメディならコメディのまま、ラストまで走り抜いてほしかったですね。ただ、「脱サラした中年男性である主人公の、心理的内圧がどんどん高まっていって、ついには爆発する話」という軸はブレていなかった。そこはすごくよかったと思います。

  • 編集D

    「話の主軸」に関して、青木さんご自身はどのように取り組んでいらっしゃるのでしょうか?

  • 青木

    私は、テーマから話を作り始めることはほとんどなくて、大抵はキャラクターから始めますね。例えば、もし私が『紙ヒコーキは君をのせ、』みたいな話を書く場合は、最初にまず、登場人物二人のキャラクターや関係性について考えます。その後、ジャンルやテイストを決め、「よし、今回は、飛行機を自作する男子高校生たちの爽やか青春ストーリーで行くぞ」と心が決まったら、そこからブレないように書いていく、という感じです。たまに、書いている途中で路線が変わってきたりすることもあるのですが、その場合は最初からまた書き直します。

  • 編集C

    もし、書いている途中で、「紙ヒコーキ」というモチーフが話に合わなくなってしまったら、そのときも書き直すわけですか?

  • 青木

    はい。「自転車」のほうがぴったりくるなと思ったら、「紙ヒコーキ」の話はストップして、「自転車」で新たに書き始めます。

  • 編集C

    逆に、どうしても「紙ヒコーキ」を描きたいという場合は、そこに合わせてキャラや展開を考え直すのでしょうか?

  • 青木

    あくまで私個人の話ですが、その場合もキャラクターから立て直すと思いますね。私は、「キャラ優先」で書くタイプなので。何を優先するかは、書き手一人ひとりによって違うと思います。「設定優先」の人もいれば、「ストーリー優先」「アイテム優先」の人もいるでしょう。私は自分が「キャラ優先」タイプだという自覚が強くありますので、ほとんどの場合、キャラクターから考え始めます。このあたりのやり方は人それぞれなので、自分で決めるしかないと思いますね。何も考えずになんとなく書き始めるのだけは、やめたほうがいいと思います。ボヤーッと書き始めたら、やっぱりボヤーッとしたものができあがる。途中で話が変わってしまったりもする。自分が得意なジャンルを追求するとか、「このオチにするために書く」とかでもいいので、とにかく自分で自覚的に考えて決めることが重要かなと思います。

  • 編集C

    やっぱり、「自分はこの作品で何を一番に描きたいのか」ということを、常に念頭に置くということですね。

  • 編集B

    ただ、書く前にすべてを完璧に決めておくのは難しい面もありますよね。

  • 編集A

    確かに、一回書いてみないとよくわからないということはあるでしょうね。

  • 編集B

    だから、書き上げた後少し時間をあけて、ちょっと冷静になってから読み返してみてほしい。そうすれば、「あれ? 最初と最後で話がブレているぞ」というようなことは、自分でも判断できるのではと思います。

  • 青木

    そうですね。書く前にまずとことん考え抜くことも重要ですが、それだけでは何も始まらないので、考えたらとにかく書いてみる、とりあえず最後まで書き切るというのも大事ですね。書き終わってからの微調整はいくらでもできます。ときには微調整どころか、「後半全部、捨てるしかない……」みたいなこともあるでしょうけど、そこは恐れず、潔く決断してほしいですね。実際私も、何度も何度も書き直しをしますよ。自分の作品をより良いものにするためなので、決断する勇気は持っていてください。
    結局のところ、「主軸をブラさない」ためには、「自分は何を書きたいのか」を強く意識するということに尽きると思いますね。そこだけは意識しつつ、でもあまり難しくも考えすぎないで、小説を書くことに楽しく取り組んでいただきたいなと思います。

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