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選評付き 短編小説新人賞 選評

第223回 短編新人賞 総評

  • 編集B

    今回は、独白調の作品について考えていきたいと思います。今回の最終候補作は、偶然にも4作全てが一人称作品でした。

  • 青木

    短編は、独白調の作品に向いているのは確かですね。一人称の小説を「書きやすい」と考えている投稿者も多いのではと思います。

  • 編集B

    受賞作の『サンタの願い』は、典型的なガール・ミーツ・ボーイものということもあって、主人公の「わたし」の気持ちが追いやすかったですね。一人称であることが、読者が主人公に寄り添いやすい方向に作用していました。

  • 青木

    ストーリーが明快で、読者が戸惑うこともありませんでしたよね。何より、キャラクターの好感度が高かった。ほほえましいお話で、最後まで安心して楽しく読めました。

  • 編集B

    一方『兄のココア』は、現代の普通の女の子の「私」が語り手であるところは同じなのですが、その子に読者が寄り添える描き方には、あまりなっていませんでしたね。

  • 編集C

    大きなテーマが冒頭から提示されているので、そのことについて「私」が自身の考えを深めたり、自分の気持ちを掘り下げていくのかと思っていたら、微妙に話の軸がズレていく。友人の考えを気にしたり、世間の価値判断にとらわれたりと、「他の人がどう思うか」ということに、主人公が意識を向け過ぎている印象でした。

  • 編集B

    結果として、テーマの扱い自体が中途半端なまま終わってしまっていました。難しいテーマですから、絶対的な「正解」にたどり着かなくてもいいんです。ただ、悩んだ末に、主人公は主人公なりにどういう結論を出したのか、どういう心境に至ったのかというところは描いてほしかった。

  • 編集C

    せっかく一人称小説という、「主人公が自分の気持ちに真摯に向き合う」ことに適したスタイルだったのに、もったいなかったなと思います。

  • 編集B

    『遥かな現実のペンライト』は逆に、主人公の「僕」が、自分の気持ちを探り当てようとする過程を丁寧に描いていました。結局、「何がどうでもいい。とにかく、ステージに立つハルカさんが好きだから、僕は応援するんだ。それが僕の現実の全てだ」という、それまでの考察をすべて放り投げるような結論にたどり着きますが、主人公が自分で悩みぬいた末にたどり着いた答えですから、それはそれでひとつの形だと思います。ただ、その結論に至るまで、整理されていない主人公の脳内語りが延々と綴られるのは、読者によってはちょっと退屈に感じてしまう。

  • 編集C

    あまり重要でないことまで、だらだらと書きすぎていると感じました。十代の男の子らしさなのかもしれませんが、なんだかんだと理屈をこねたり、小難しい自己分析をしたりしている。

  • 編集D

    キャラクターが悩んで思考を巡らせるのを「描写」するのではなく、書き手自身が同時進行で悩みながら書いたものを、そのまま投稿するのは、「ちょっと待って」と言いたいですね。

  • 編集B

    作者が主題に関して逡巡するのは、作品を書くより前の構想段階でやっておくべきことです。もちろん、その悩んでいる過程の部分も作品には盛り込んでもらいたいのですが、どういう道筋を通ってどういうゴールへ到達するのかということは、作者は事前に把握していてほしい。

  • 青木

    ただ、主人公の気持ちになって、独白調でだらだら書くというのは、実は私はよくやります。純粋に楽しいですし、思いつくまま書いて書いて書きまくってようやく、自分が本当は何をいちばん書きたかったのかが分かることも多いからです。で、それが分かったなら、そこからまた新たに、最初から全てを書き直します。

  • 編集B

    なるほど。確かにそれなら、書きながら迷走してしまうということはないですね。

  • 青木

    原稿に取りかかる前にプロットを立てる方なら、プロット段階で「何を描きたいのか」は明らかになっていると思いますが、「短編のときはプロットを立てない」という人もいますよね。そういう方は、この「思いつくままだらだら書いてみる」というやり方を、ぜひ試してみていただきたいと思います。書いているうちに興が乗ってきて、思わぬいい言葉が飛び出してきたりすることもありますので、おすすめです。ただし、気が済むまで書き尽くしたら、必ず頭から書き直してください。

  • 編集B

    それなら、テーマも結末も話の流れも把握している分、しっかりとした軸のある物語になりますよね。

  • 編集C

    原稿は、「いちおう書き上がったから、とりあえず送ろう」、ではもったいないです。しばらく寝かせてでも、自分の中で熟成するのを待ったほうがいいんじゃないかなと思います。

  • 編集D

    その点、『わたしのマトリョーシカ』には、書きたいものがちゃんとあったように感じました。ラストの展開もおそらく最初から決めていて、そこへ向かって筆を進めていったのではないかな。

  • 編集F

    ただ主人公の気持ちは、描かれ方が抽象的で、よく分からなかった。文章も凝り過ぎなところがあり、何を表現しているのかを、読者が正確に受け取りづらかったです。一人称ゆえの独りよがりな感じが、ちょっと出てしまっていたかなと思います。

  • 青木

    「マトリョーシカ」が何かのメタファーだということは伝わってくるのですが、具体的に何を表しているのか、今ひとつ読み取りにくかったですね。人形をあえて三重構造に設定した意味も、よくわかりませんでした。大中小の人形は、それぞれ違う何かを象徴しているようなのですが……

  • 編集B

    もしかしたら作者の中にはちゃんと答えが用意されていたのかもしれないけど、それを読者にうまく伝えるには至っていなかったですね。「マトリョーシカ」という要素に何らかの概念を託した話にとどまっていて、読者が引き込まれて読める作品にまでは仕上げられていなかったと思います。

  • 編集F

    どの作品もいいところまでは行っているのですが、あと一歩足りない感じで、惜しかったですね。

  • 青木

    まずはやはり、自分が何を描きたいのかを、自分でしっかりと把握することが必要ですね。で、「これだ!」というものがつかめたら、今度はそこをさらに深めていく。

  • 編集F

    メリハリも重要だと思います。一人称だと特に、同じトーンの語りが最初から最後まで続いてしまいがちです。話の要素や流れを整理して、読みやすさ・分かりやすさにも配慮してください。

  • 編集B

    あと、一人称の主人公は、作者自身の投影である場合も多いですよね。主人公が作中で「どうしよう?」と思い悩む裏では、作者もまた「どう書こう?」と思い悩んでいるのだろうと思います。小説を書くことは、自分をさらけ出すことでもあります。そういうことに自らすすんで取り組んでいるのですから、怖がったりあれこれ考えすぎたりせず、思いきって正面からぶつかってみてほしい。他人の判断など気にしないで、もっと自由に、もっと堂々と、「自分はこう考えました」ということを作品上で表現してもらいたいなと思います。

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