編集F
目の付けどころが一風変わっている作品で、おもしろかったです。主人公の「僕」は中学一年生で、軟式テニス部に入っています。でも、部では先輩たちが横暴にふるまっていて、一年生はボール拾いをさせられ、さらには至近距離からボールをぶつける的にされる。ほぼいじめといっていいレベルのしごきです。こういう現況が示されると、多くの読者は「ああ、理不尽にいじめられる、暗い青春を描いた物語なんだな」と思いますよね。ところが、そこで話に浮上してくる新山君が、思いもかけない言動を見せてきます。ボール拾いの後、コートの端っこで遠慮がちな打ち合いをしながら主人公がため息をついているとき、同じ立場であるはずの新山は、何やら不思議な行動を取っている。なんだかちょっと楽しげに、新しいボールをさりげなく、でもわざと藪の中に打ち込んだり。