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選評付き 短編小説新人賞 選評

第224回短編新人賞総評

  • 編集A

    今回は、作品の「蛇足」となる部分について話し合っていきたいと思います。平たく言えば、「そこは書かないほうがよかった」という部分ですね。

  • 青木

    今回、ちょっと多かった印象ですね。

  • 編集B

    例えば、『夫の不倫相手が友人夫婦の娘の女子高生だった話』では、一人称で書かれた小説の冒頭とラストに、三人称視点の箇所が差し込まれていました。ここはないほうがよかったですね。

  • 青木

    この作品は、9割の部分が一人称での独白ですよね。だったらもう、全部一人称にしたほうがいい。冒頭とラストの部分は、なくても話は成立していますし、それで十分面白かった。もしどうしても入れたい情報があるなら、工夫すれば一人称部分に入れ込めたと思います。三十枚しかないのですから、人称は極力統一したほうがいいです。

  • 編集B

    視点や人称が変わると、読む側は頭と気持ちのスイッチを切り替えなければならない。これは書き手が思っているよりも、かなり大きな負担になります。なおかつ、うまく書けていないと、読み手が混乱する原因にもなる。

  • 青木

    読み手にとっては、けっこうストレスですよね。せっかく物語の中に入り込んでいたのに、その集中も切れてしまいます。

  • 編集B

    長編作品なら、明確な意図をもって視点を切り替えるのは問題ないですし、短編であっても、絶対やってはいけないわけではありません。が、「スイッチを切り替える」という手間を読者にかけさせるのだということは意識してほしいですね。そのリスクを取ってでもやるべきかどうかを、書き手はシビアに判断してください。

  • 編集C

    『春と思う勿れ』も、ラストで急に視点が変わっていましたね。このラストの部分は、内容的には残しておいてほしいのですが、視点は変えてほしくなかった。

  • 青木

    ここも、視点は主人公のまま書くことは可能だったと思います。ラストまで一人称で貫いてほしかった。非常に惜しいですね。

  • 編集C

    『あの有馬記念』も、これまた、最後の2文はいらなかった。言葉で説明しなくても読者が受け取ってくれただろうところを、作者が解説してしまっている。そのせいで、ラストの余韻が薄くなってしまいました。

  • 青木

    「へろへろになってゴールした」というのは、すごくいいラストの一文だと思います。せっかくいい作品に仕上がっていたのに、そこから少し書きすぎてしまいましたね。あと、一番の盛り上がり部分を、亜弥ちゃんに長台詞で全て説明させていました。インパクトのあるいいシーンだったのですが、ここもちょっと、台詞を削ったり書き方を変えたりしたほうがいいかなと思います。

  • 編集C

    書き慣れないとなかなか難しいとは思うのですが、説明しなければいけないところと、説明しなくてもわかってもらえるところのボーダーラインを、なんとかして自分なりに掴んでほしいですよね。

  • 編集B

    自分が読者となって本を読んでいるとき、ちょっと意識してみるといいかもしれませんね。作者がどういう書き方をしていて、それを読んだ自分がどう受け取ったかというあたりを。やっぱりプロの作家さんは、書きすぎないギリギリのラインで筆を止めている。でも、読者は読み取れる。「書かれていないのに自分が読み取れたのは、なぜだろう?」というところからさかのぼって読み直してみたら、参考になることが色々見つけられるのではないかと思います。

  • 青木

    ただ、「どこまで書くか」の塩梅は、作家それぞれの好みもありますのでね。参考にするなら、いろんな作家さんの、いろんな本を読んでみてほしいです。

  • 編集A

    この問題は、本当に難しいと思います。万人に分かってもらおうというのは、どうしても無理がありますしね。

  • 青木

    例えば、『あの有馬記念』にしたって、最後の2文を削って、亜弥ちゃんの台詞にも手を入れて縮めたら、「え? これ、つまり、どういう話?」って思う読者はきっといると思います。「全部説明してくれないとわからない」という読者は必ずいるんです。だから、そこはもう覚悟して、「この書き方でわかってもらえないなら、それでもいい」というラインを自分で引かなければいけないと思います。もちろん、自分勝手に決めつけてしまうのではなく、試行錯誤は必要です。でもそうやって書き続ける中で、「私はこうする」という基準を自分で決めるしかないと思いますね。

  • 編集B

    説明は、書こうと思ったらいくらでも書けるものだからこそ、どこで手を止めるかというのは大きな決断になりますよね。

  • 青木

    まあ、説明したくなっちゃいますよね。どうしてもね。それは私もよく分かります。

  • 編集E

    しないよりしたほうが、理解してもらいやすいのは確かです。でも、やりすぎると陳腐になってしまう。難しいですよね。

  • 編集A

    実際、説明が足りなくて、「不足していますよ」という批評を受ける作品も多いです。

  • 編集B

    一つ言えるのは、同じ説明をするにしても、「作品の情報」と「人物の情報」は扱い方が違ってくるということです。作品世界に関する基本情報や背景設定などは、端的に説明して読者に伝える必要がある。でも、登場人物の「感情」を、作者が言葉で説明してしまう作品は、かえって陳腐になりがちです。。

  • 青木

    そうですね。「好き」を「好き」と書かずに、読者にわかってもらう。それが小説ですね。

  • 編集B

    ただ、その「人物の感情」の根拠となる部分は、作者がきちんと読者に伝える必要があります。例えば『ボール拾い』は、蛇足部分は特に見当たらなかったですが、「人物の感情」や「行動の動機」の部分がわかりにくかった。「新山君はなぜこんなことをしたのか」「新山君は何を考え、どう感じているのか」というところを、読者はうまく読み取れない。ここはもう少し、あからさまな説明ではない形で、伝える工夫をする必要があったと思います。

  • 編集A

    『夫の不倫相手が~』も、「なぜ女子高生が中年男性に惹かれたのか」という部分の動機が、読者には納得しにくかったですよね。例えば「主人公の夫はイケメンだった」みたいなことでも何でもいいんです。ちらりとでも語られていればよかった。

  • 青木

    私は、この作品のタイトルも、ちょっと語りすぎていてもったいないなと感じます。話のあらすじを全部明かしてしまっていますよね。読み手の気を引くタイトルではあるんだけど、ストーリーがあらかたわかってしまうし、「企みがありますよ」という雰囲気が出すぎている。作品そのものも、「仕掛けがすごい」というところが大きく目立ってしまって、主人公の感情の部分に読者の目が届かないです。主人公の辛い思いに、もう少し焦点が当たってもいいと思うのですが。

  • 編集C

    主人公がこういう究極の行動に出ざるを得なかった「気持ち」の部分が、もう少し描かれてほしかったですね。ショッキングな種明かしに重点が置かれ過ぎていた。

  • 編集A

    蛇足部分を考えることは、不足部分を考えることにも繋がりますね。

  • 青木

    その見極め力は、やはり書き続けることでしか磨かれないと思います。

  • 編集B

    最終選考作品を具体例としてアドバイスを送りましたが、この総評を我がこととして読むだけでも、身につくものはあると思います。参考にしてみてください。

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