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選評付き 短編小説新人賞 選評

第225回 短編小説新人賞総評

  • 編集A

    今回は、「アイテム」について話し合っていきたいと思います。今回の候補作はどれも、メインとなるアイテムがタイトルに示されていましたね。

  • 編集G

    魅力的なアイテムもあったし、話に絡ませようと頑張っている作品もあったのですが、「ちょっとうまくいっていないかな」と感じられるところもありました。

  • 青木

    例えば、『スターチスの茎を切る』。これについてはまず、「スターチス」というアイテムに目をつけたこと自体は、すごくよかったと思います。「もともと仏花で手がかからないから、ズボラな私にはぴったり」ということで、主人公のキャラクター性と結びついていましたよね。

  • 編集D

    ラストの、「失恋の痛みを乗り越えるため、今はまず、スターチスの茎を切ろう」という場面もすごくよかったと思います。だから最初から、「スターチス」というアイテムをもっと話に絡ませておけばよかったのに、ラスト近くになるまであまり登場してこない。

  • 編集G

    作中にはいろんな花が出てきますよね。主人公も自分の部屋に、とっかえひっかえ花を飾っている。

  • 編集D

    四季折々の花を登場させ、それによって時間経過や季節の移り変わりを表現しているのですが、こういう部分は不要だったかなと思います。これでは「スターチス」が活きない。

  • 青木

    そうですね。もう最初から、「私はズボラだから、部屋に飾るのはスターチスと決めている」、みたいな感じで話を始めればよかったと思います。それなら、主人公の性格とか暮らしぶりが、読者にすんなり伝わります。それに、「昨夏。ヒマワリ」「昨秋。コスモス」みたいな書き方だと、ドラマの流れが感じられない。今作は「主人公と佐藤君」の話なのですから、「スターチスばかり部屋に飾る主人公」が、佐藤君と出会って付き合うところから話を始めればよかったと思います。

  • 編集F

    最初から主人公と絡めて「スターチス」をちらりちらりと登場させておき、それがラストの「今はスターチスの茎を切ろう」に繋がっていくという流れだったら、すごくまとまりのある物語になったと思います。

  • 青木

    で、スターチスと自分を重ね合わせて、「今度はこの花みたいに、地味でいいから長持ちする恋をしよう」と思うとかね。

  • 編集A

    それなら、主人公の心境の変化に、「スターチス」というアイテムがさらにしっかりと絡みますよね。

  • 編集F

    いろんな花が出てきてイメージ的にはきれいなんだけど、肝心の「スターチス」が埋もれてしまって、もったいなかったです。

  • 編集G

    作中にアイテムが登場すると、読者は無意識的に、そこから何かを読み取ろうとしますからね。特にタイトルに出てきたりしたら、「それが重要なアイテムとなる話なんだな」と期待する。

  • 編集D

    で、読み終えてそのアイテムがうまく活かされていなかったりすると、ちょっと「あれ……?」という気持ちになりますよね。『ケチャップで描く三行半』も、同様だったと思います。

  • 編集G

    百合子さんはケチャップをぶちまけて捕まったし、「オムライス」がどうのという箇所は作中にいくつも出てはくるのですが、印象的にストーリーに絡んでいるとは言い難くて、惜しいなと思いました。

  • 青木

    「オムライス」ときたら、やっぱり「子供が好きそうな食べ物」というイメージですよね。実際、オムライスが好物である聡は、子供っぽくて芯のないダメ男でした。そういう点では「オムライス」というアイテムのチョイスはうまかったのですが、もう一段効果的に話に使ってほしかったかなという気がしますね。

  • 編集D

    タイトルに入れているくらいなのですから、「ケチャップ」を使って何かするという場面が、過去のエピソードではなく現在のシーンに欲しかったです。

  • 編集G

    『幻想の国のアリス』については、『不思議の国のアリス』という有名な物語自体が、作品を貫く大きなアイテムになっていました。ただ、これはあまりに有名な作品であり、少女性を想起させる定番のアイテムでもあるので、今作における固有のアイテムとは捉えにくいです。

  • 編集D

    「アリス」という単語を出せば、「夢見がちな少女」というイメージをたやすく醸し出せるところはありますからね。

  • 編集A

    「有紗と真帆」の関係性を描くにおいて、『不思議の国のアリス』という普遍的なアイテム以外に何か、「二人だけの思い出のアイテム」みたいなものがあったほうがよかったですね。真帆が手作りの髪飾りを作ったりしていましたが、その場限りの使われ方でしかなかった。

  • 編集G

    不格好なちっちゃなプレゼントをもらったけど、なぜか捨てられないとか。せがまれてお茶会ごっこにつきあったら、手作りケーキが意外においしくて、その甘い味の記憶が残っているとか。そういう「心が触れ合った思い出」になり得るものが、何か欲しかったですね。

  • 編集D

    『水蜜桃の朝』は、最初から最後まで、「桃」が何度も顔を出してきました。

  • 編集A

    重要なアイテムとして、話に直接登場しますよね。ただ、ものすごく印象的だったかと問われたら、正直それほどでもなかったような……。

  • 編集H

    なにしろ主人公の変人ぶりがあまりに際立っているので、アイテムにまで読者の目が届かなかったところは、あったかもしれないです。

  • 編集G

    でも、エリちゃんと一緒に桃を食べたひとときを、まさに水蜜桃のごとく甘い優しい思い出として改めて心に刻んだという話ですので、「桃」というキーアイテムが、場面描写の中でもテーマの中でも活かされていて、よかったと思います。まあ欲を言えば、より効果的な使い方ができた余地も、あったとは思うのですが。

  • 編集A

    投稿作全体で考えてみても、アイテムそのものは魅力的なのに、それを作品の中で活かしきれていないことは結構多いですね。

  • 青木

    それに、アイテムに関しては、書き手の好みやセンスにかなり左右されるところがあります。アイテムに意味を持たせることが得意な人はいいのですが、苦手な人は無理にやる必要はないです。 書きながら自然に、このアイテムや言葉には、テーマと結びついた意味があると思ったときに、少し強化してみるといいと思います。匙加減は書くうちにわかってきます。

  • 編集G

    せっかく思いついた大切なアイテムであればこそ、ただ出すだけで満足しないで、「もっとうまい活かし方はないか?」ということを、時間をかけて考え抜いてほしいなと思います。

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