岩谷文庫 ~君と、読みたい本がある~
岩谷文庫

岩谷文庫 ~君と、読みたい本がある~

『岩谷文庫』は、ダンスと読書が大好き! THE RAMPAGE from EXILE TRIBEの岩谷翔吾さんが、フレッシュな視点でおすすめの本を紹介してくれる、ほぼ月イチブックレビュー連載です。今回の特別編では、小説家のカツセマサヒコさんをお招きし、2022年5月13日にInstagramで行われた対談配信を記事化してお届け。『明け方の若者たち』でカツセさんの作品に魅了された岩谷さんが、熱くお話を聞きます。

岩谷翔吾

2017年、総勢16名からなるダンス&ボーカルグループ・THE RAMPAGE from EXILE TRIBEのパフォーマーとしてデビュー。映画「チア男子‼」への出演など演技に挑戦するほか、日本将棋連盟三段や、実用マナー検定準1級の資格取得など趣味多数。
2021年2月より、webマガジンCobaltにてブックレビュー『岩谷文庫』連載をスタート。ダンスのみならず活動の幅を広げている。

カツセマサヒコ

1986年、東京都生まれ。一般企業勤務を経て、2014年よりライターとして活動を開始。2020年刊行の小説家デビュー作『明け方の若者たち』(幻冬舎)が大ヒットを記録し、映画化。2021年にはロックバンドindigo la Endとのコラボレーション作品として二作目となる小説『夜行秘密』(双葉社)を刊行。東京FMでのラジオパーソナリティや雑誌連載など、活動は多岐にわたる。

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岩谷さん熱望、カツセマサヒコさんとの対談が実現!

岩谷今日は『岩谷文庫』の特別編ということで、カツセマサヒコさんに来ていただきました。ありがとうございます。今日はよろしくお願いします!

カツセよろしくお願いします!

岩谷カツセさんの『明け方の若者たち』を、先日『岩谷文庫』でレビューさせてもらいまして、猛烈に対談したいとアピールしてたら、カツセさんがこころよく受けてくださって。

カツセあんなに熱いレビューは久しぶりに見ました。『明け方の若者たち』の感想って、結構難しいと思うんです。どう表現すればいいかとか、ネタバレはどう避ければいいかとか。その中でギリギリのラインをずっと攻め続けるレビューを見て、これは本当に嬉しいなと。だから今日お会いできて光栄です。本当にありがとうございます。

岩谷僕もめちゃめちゃ光栄ですし、カツセさんにお会いした第一印象、めちゃくちゃイケメンでモテそうだなと(笑)。

カツセそんなことないですほんと。ありがとうございます。恥ずかしい……。

岩谷バンドのボーカルとかしてそう。

カツセああ、それはよく言われますね! 「下北沢で似た人15人ぐらい見ました」とか、「青山学院大学の渋谷キャンパスで似た人たくさん見ました」とか(笑)。

岩谷それすごいわかると思いました(笑)。ということで、早速なんですけど『明け方の若者たち』。今見てくださってる中に、映画だったり原作、読まれた方、観た方いらっしゃるでしょうか。

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カツセどれぐらいいらっしゃるんだろう?

岩谷映画はもう配信もあったりしますよね。

カツセそうです。スピード感がすごいですよね。去年の12月31日に映画が公開されたと思ったら、もう3月末にはAmazon Prime Videoで配信が始まっているんですよ。今、いつでも観られるんですけど、なんか、昔は映画化されてからしばらくたたないとレンタルとかできなかったじゃないですか。

岩谷1年たってやっとDVD発売ぐらいでしたよね。

カツセそうそう。それがもうあっという間にみんなのところに届くので、ありがたいなと思います。

岩谷バージョン違いの物も配信されていますよね。

カツセそうです。彼女目線のスピンオフも作ってもらえて。広がり方がすごいなと、びっくりしました。

岩谷すごいですよね。最近!って感じで。

カツセそうですね、最先端の作品だなという感じがしますね。

岩谷まず物語の説明からしたほうがいいですかね。僕は最初に原作を読ませてもらってから映画を観にいきまして。これどうやって映画化するんだろうって思ってたら、本当にうまく映像化されていて。

カツセわりと原作から映画化される時って、大幅な変更があるものだと思ってたんですけど、かなり忠実に作ってもらったので、すごく嬉しかったですね。愛を感じる。

岩谷すごいですよね。僕は原作から入って結末を知っていたので、どういう風に表現するんだろうって思ってました。

カツセ原作を読んでからだと、映画はちょっと斜に構えて観てしまいません? 純粋に観れないというか(笑)。それもまた楽しみ方だなと思って。

岩谷そうですね(笑)。ということで、ちょっと軽く物語の説明をしましょうか。

カツセ簡潔に言うと、20代中盤くらいの男女の恋物語です。明大前の沖縄料理屋で「勝ち組飲み会」っていういけ好かない飲み会が開かれまして。そこにたまたま居合わせた、つまらなそうな顔をしていた女の子に一目惚れした主人公がいる。この2人の恋模様と、それにまつわる青春を描いた物語なんです。……って、すごい雑な説明ですね、これ。

岩谷だって難しいですよね?

カツセそうなんです。難しいんですよ、これが。もう少しお話すると、ふたりにはある秘密が隠されていて、でもその秘密に関して、2人は同意の上で恋を始めるんですよ。ただそれが読者や視聴者には明かされていない形で進んでいくので、どうなるんだろう? っていうところを楽しみに読んでもらうという。だから、物語の中に不穏な空気が常に流れてるんですよね。

岩谷すごくリアルなんですよ。

カツセ読んでくださった方、観てくださった方の中には「これは私の物語でした」と言ってくださる方が多くて。叶わぬ恋をした方や、結ばれずに終わった恋の経験がある方に届いてほしいなと思っていたし、実際そういう方たちに読んでもらえている印象はありますね。

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岩谷この本は、誰しもがどこかしらに共感するというか。文章もすごくリアルに具体的に描かれてて、この物語の世界観を経験したことがなくても、どこかしらに自分と似たような体験がちりばめられてる。みなさんの反応も楽しみですよね。

カツセ視聴者のみなさんの中には、すでに社会人になっている方もいらっしゃいますよね。僕は大学を出て、新卒で入った会社で活躍できず、「こんなはずじゃなかった」って嘆いてるような社会人だったんです。行きたい会社に入ったんですけど、配属された部署がこの小説に出てくるとおりの総務部で。営業職や企画職で活躍している同期を横目に見ながら、ずっとバックオフィスの仕事をしていたんです。それが社会の役に立っているとは到底思えず、しんどくてうまくいかなくて……。
そのくすぶっていた時期のことを書いたので、みなさんも「うまくいかねぇ、何者にもなれてねぇ」っていうときに読んでもらえたら、心に残るんじゃないかなと思っています。だから、岩谷さんが「この小説気に入った」って言ってくださったときは、すごく不思議でした。「いやあなたスターじゃん!」って。

岩谷どういうことですか?

カツセこの作品って、「何者でもない俺なんて」ってしょげてる主人公の物語じゃないですか。恋愛もうまくいかず、ずっとクヨクヨしてるような話なので、そんな内容が岩谷さんに刺さったことが信じられなかったんですよ。輝かしいキャリアの持ち主で、これだけファンもいるから。

岩谷いや、本当に変わらないですよ(笑)。

カツセ本当に!?

岩谷先ほど(配信の前に)ちょっとお話ししましたけれど、行くお店もそうだし、本当に。

カツセ勝手な偏見ですが、僕から見た岩谷さんは完全にスターだし、成功者だと思っていたんですよ。こじゃれたバーで高いお酒飲んでるんだろうって思っていたら、先ほど「赤ちょうちんの店大好き」なんて話が始まって。……あ、コメントで「今真っ昼間」って言われちゃった。

岩谷赤ちょうちん最高っすよ! チャンジャとかつまみながら(笑)。

カツセイメージがなさすぎるんだよなあ……(笑)。それで、すごく親近感が湧いたっていうか、嬉しかったんです。

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カツセさんの綴る文章に魅了されて……

岩谷『明け方の若者たち』は、恋愛に第一のテーマを置いてるんですけれども、恋愛以外でも「仕事に対して」「夢に対して」というところも刺さる本ですよね。フックが多いので、どの世代のどういう方にも刺さる本なんじゃないかと思います。

カツセそうだったらありがたいです。

岩谷何より、カツセさんの文章がすごく好きで。小説なんですけど、エッセイというか、自分の体験にどんどん上書きされていく感覚があって。すごく新しい読書体験ができました。文章がエモすぎて、すーっと入ってきたんですよね。本をあまり読んだことがない人にも、すっと入るんじゃないかなっていう。

カツセ普段あまり読書をしない人にも届くように、ということはすごく意識していました。初めて書いた小説ですし「この本を手にする前に読んだ作品は『恋空』でした」みたいな、何年ぶりかに本を買いましたっていう人にも、最後まで読んでもらえる物語にしたかったんです。それと、当時は悪い意味で読者の想像力をあまり信じていなかった気がします。たとえば「コンビニ」って書けばいいところを「ローソン」まで書く。そういう具体化をひとつひとつ突き詰めることで、イメージを強く擦りつけていく作品なので。だから「映像的に読めました」っていう方がすごく多かったのは嬉しい反面、今度はもうちょっと読者の想像力を信じて、余白を持たせた作品も書きたいと考えるようになりました。本当にいろんな方が「自分の話でした」って言ってくれたし、映画化された時にも「これはみんなのドキュメンタリーだ」と言ってくださる方がいて、やはり嬉しくはあったんですけど。

岩谷いい表現!

カツセ絶対この人コピーライターだろって思いました(笑)。作品をよく表している感想だったと思います。

岩谷『明け方の若者たち』は、どれくらいの期間をかけて書かれたんですか?

カツセなんだかんだ、2年半か3年ぐらいはかかっていますね。最初は全然違う話を書こうとしていて、でもいろいろと試行錯誤している間に、あれよあれよと形が変わっていって、今のような話になって。

岩谷方向性というか展開は、もともとこういうのが描きたいっていうのはあったんですか? それとも、書いてるうちに「こういうのがいいな」ってなったんですか?

カツセ半々ですね。エンターテイメントとして楽しむ意味で、どこかに「どんでん返し」まではいかなくても、ひとつ切り替わるポイントを作らなきゃな、とは思っていました。それ自体は決まってたけどエピソードは決まってなくて、後から「こういうのがいいかな」と当てはめていったというか。

岩谷なるほど。書かれる時って、どういう時にアイデアが降ってきたりするんですか? ルーティンみたいなのがあって?

カツセ一応ルーティンは決めています。朝はほぼ決まった時間に起きるし、朝食を食べて、コーヒーを淹れるところから始めて、午前中できるだけ早くから書く。でも、いつもそれができるわけではないし、本当に、日によります。天候やニュース、たまたま流れてきたツイートにも影響を受けることがあるし、執筆が進まない日は自分がニートみたいに感じて焦りますし。実は、今もスランプで、何日も書けてないんです。『明け方の若者たち』でいうと、尚人っていう主人公の親友キャラがいて、彼は結構ぽんぽんと勝手にしゃべり出してくれるので助かったんですけど、そういうことは滅多にないですし。

岩谷尚人のラスト近くのセリフは、特に書きたかったんじゃないですか? 尚人が物語の軸になる……ではないけど、この作品を象徴しているなと思って。あのセリフは一気に書かれたんですか?

カツセそうですね。最初の構想では、もっと登場人物が多くて、尚人みたいなやつがたくさんいたんですよ。新入社員になりたての社会人1年目って、群れてるイメージがあって。そういうのを書きたいなと思ったんですけど、いかんせん自分に筆力がなくて。登場人物を書き分けられないと思ったから、集約して尚人という人物ができたんです。だから彼は4人ぐらいの人格を背負っていて、その中でもすごく優秀で、主人公のことをずっと思ってくれている味方の人物という面が強調され確立されていった人物です。後半、まさに尚人が主人公を助けるシーンはバババッと浮かんできて、「うわー尚人いいやつ! 俺もこういう友達ほしかった!」と思いながら筆を進めました。

岩谷僕も尚人のキャラクターを見て、この尚人を書けるカツセさんに、いろいろと人生について相談したいなと思いました(笑)。

カツセあれは僕じゃないんですよ。というか、僕にも尚人がほしいです(笑)。

岩谷『明け方の若者たち』を読んで、カツセさんってスーパーいろんな経験をされてきたんじゃないかなと思ったんで、相談しまくりたいなと思ってたんですよ。この本は小説ですけど、それぐらい自分の人生のいろんなことが集約されてると感じたので。

カツセ大学3年生や4年生、就活これから始まるぞって時期にこの本を読んだ方には「社会人ってこんなにしんどいんですか?」と言われるし、社会人になって数年たった方からは「当時の俺でした」とみんな言ってくれます。これらの時期に抱える悩みに対するアンサーとまではいかないんですけど、「わかるわその気持ち」と伴走してくれる物語ではあるのかもしれない。この本が主人公にとっての尚人のような存在になったらいいなと思いながら書いたところもあります。

岩谷失恋した後は、尚人の「あのセリフ」だけでいいので読んでほしい。あそこだけ何度も読み返して、尚人のセリフで傷を癒やしたいですね。

カツセ確かに。そういう名言を軽く言えちゃうタイプの親友、書いててよかった。

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岩谷描写がすごくカツセさん節というか。そこがすごく印象的で、例えば「梅雨の予行演習のような雨が降り始めていた」とか。普通に「雨が降っていた」じゃなく、「梅雨の予行演習」っていうだけで、季節感と湿っぽさと、ジメジメした感じとが一気に伝わってきて、アスファルトにはじいた雨の匂いとかも想像できる感じがすごいなと思って。

カツセ恥ずかしいけど嬉しいですね。

岩谷もともとそういう文章を意識されていたんですか? それとも出てきちゃった?

カツセ出てきちゃったほうが強いです。わりと手癖で書いてることが多くて、比喩を2度がけ3度がけするんですよ。これが串焼きのタレだったら、きっと怒られてると思う(笑)。しつこいぐらいにそれをやって、味を濃くして食べさせるような文章が多いんです。比喩を使って武装しないとわりとチープな表現が多いし、物語が絵にならないというか。この話って、特別な人が出てこないんですよね。超人がいたり、天才がいたり、犯罪者がいたりはしないから、装飾しないと本当に平凡になってしまう。

岩谷日常に溶け込む話ですよね。

カツセだからこそ、日常の風景がどう見えてるかをできるだけ具体的に言葉にしたいとは思います。さっきの「梅雨の予行演習」もそうですし、何かに喩える、置き換えることも、ずっと考えている気がします。でも、こういう文章は読む人によっては「くどい」と思われがちなので、岩谷さんに刺さったのが、僕はすごく嬉しかったですね。

岩谷『岩谷文庫』のレビューでも書いたんですが、「間違い探し」のシーンがあるじゃないですか。サイゼリヤの。あそこのシーンがめっちゃ秀逸だなと思って。あれはどうやって出てきたんですか?

カツセあれは実体験に近いです。サイゼリヤの間違い探しって難しいことで有名で、それをやるのが楽しくて。全然当たらなくてゲラゲラ笑ってたんですけど、「これ、いつかどこかで書きたいなあ」と思った経験を、そのまま使ったシーンなんです。Twitterとかでよく「初デートでサイゼリヤに連れてく男はクソだ」なんて言われますけど、この話は本当に初デートでサイゼリヤに行ってるから、結構心配でもあって(笑)。でもそこで楽しそうにしてる2人こそが描きたかったシーンでもあったのだと思います。
これが映画になると、コロナの影響もあって、サイゼリヤから下北沢の「餃子の王将」に変わってるんですよ。映画のそのシーンもまたすごくよくて。監督がサイゼリヤの間違い探しに代わるものを餃子の王将で見つけてくれたっていうのが、僕の中ではぐっときました。

岩谷あのシーンはアドリブなんですか?

カツセすっごい細かい脚本があるらしいですよ。それをちゃんと自然に演じる北村匠海さんと黒島結菜さんの演技が最高で、鳥肌が立ちました。

岩谷アドリブかと思いました。それぐらいリアルな生きた会話だったので。

カツセ2人の演技力が本当に素晴らしかったですね。

岩谷小説でも「間違い探し」からのセリフ運びに、いろんな伏線を張ってるじゃないですか。何度も読んだんですけど、1回目は気付かなくてさらっと読んで、ただの間違い探しのシーンだと思ってたんですけど、2回目読んだ時に「こういうことか!」ってなりました。伏線の張り方がすごい。

カツセそこはニヤニヤしながら書きました(笑)。

岩谷かましたれみたいな(笑)。

カツセそうですね、正直ちょっと思ってました(笑)。

岩谷僕だったらドヤ顔で「かましたったぜ」ってなるな。

カツセ読者に気づいてほしくって。2周目観た時にだけヒントが与えられてるって気付いてほしかったので、岩谷さんがレビューで書いてくださってるのを見た時は「ちゃんと2回読んだ人の感想だ」って、すごく嬉しかったですね。

岩谷直接的に描かれてるところと、ここみたいにあとからブーメランのように刺さるところの差し引きがすごいので、そこで食らいましたね。直線的なものだと思って読んでいたら、実はいろんなところでボディが入っていて、後から思うとめっちゃ食らっていたみたいな。

カツセわりと奇跡だと思ってます。ここまでいろんな形で最後に集約していく物語が書けると思ってなかった。後から考えるとこのセリフがきいてたなというのは、偶然もあります。

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岩谷翔吾、『明け方の若者たち』ファンとして熱く語る。

岩谷本当にいちファンとして話していいですか? 携帯電話っていうのが物語のキーワードになってるじゃないですか。

カツセはい、出てきますね。

岩谷最初、彼女が「携帯電話がない」っていうところから物語がスタートするじゃないですか。現代社会って、携帯を持ち運ばないとどこにも移動できないし、なんなら寝る時もトイレに行く時もずっと肌身離さず持ってるじゃないですか。そんな携帯電話と、恋愛や大切な人の存在がうまくかけ合わさっている。これも1回目は気付かなかったんですけど、2回目3回目って読むたびに、そういう「肌身離さない大切な存在」がいろんな起承転結の中で散りばめられてるのに気がついて。いやもう本当に脱帽でした。終わりにも携帯電話が出てきて、カッコいいんですよね!

カツセあれはズルいですよね(笑)。

岩谷これが昭和の作品だったら成立しない。平成に生まれた僕の世代、カツセさんの世代こそがドンピシャ。それぐらい携帯電話というキーワードが好きです。

カツセ確かに昭和だと成り立たない。意味不明な終わり方になっちゃいますよね。当たり前のように携帯に依存している世代だから刺さる書き方になっている。

岩谷ある意味恋愛も、依存といえば依存なんだなって思いましたし。

カツセましてやこの本はコロナ禍に発売されたこともあって、「会えない時にどれだけ思うか」が、恋愛においてもすごく大事にされるようになっていた。だからこそ、連絡手段のひとつである携帯電話にすごくいろんな意味を込めて書いてるところはあって。……岩谷さんがめちゃ熱く語ってくれるから、ちょっとびっくりです。

岩谷マジでいちファンとして話してますから。テンション上がってます今。

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カツセコメントでもみんな「めっちゃ熱い!」って言ってますよ(笑)。さっき「映画と小説どっちから読めばいいですか?」ってコメントがあったんですけど、どう思いますか?

岩谷どっちも良さはありますけど、やっぱり原作を読んでいただきたいですね。

カツセじゃあ、ぜひ、原作からで(笑)。僕自身はどっちからも嬉しいですけどね。映画化されると、映画を観てから小説を読む人が現れるじゃないですか。その時の小説の受け取られ方が全然違うように聞こえて、新鮮ですごく嬉しかったんです。たとえば、原作はモノローグが多くて、主人公がメソメソと自分の心情を書き連ねているシーンがすごく目立つんです。だけど映画では内心を語るところが一切なくて、主人公の心情は全て北村匠海さんの微妙な表情ひとつで表していく。北村さんの演技力の強さを感じましたし、あの演技をやってくれたことで、映画から入って小説を読むと「あの時彼はどう思ってたんだろう」っていう答え合わせができるという。

岩谷確かに。匠海、めっちゃハマってましたよね。映画を観てから『僕』の声は匠海の声で再生されちゃうんですよ。

カツセあれだけの人が、ここまで何者でもないダサい大学生を演じられるんだっていうことに驚きがあります。この主人公、『HiGH&LOW』に出たら、弱すぎて一発で死にそうじゃないですか(笑)。

岩谷確かに! ケンカ行く前の道中でコケて怪我してそうな感じの主人公ではあります。

カツセだから、北村さんがよくここまで演じてくれたなって思います。

岩谷あと、お訊きしたかったのは、主人公や彼女の名前が出てこないじゃないですか。あれも意図的ですか?

カツセそうですね。一つは、単純に僕が名前をつけるのが恥ずかしくてやりたくなかったから。もう一つは、名前をつけた途端にどこか遠い人に感じてしまいそうだったからです。それで、どうにか2人は「彼」「彼女」のままで突っ走れないかなと思いながら書いたんですけど、映画化される時に、「やっぱり名前をつけてもらえませんか」と言われて。最初は断ったんですけど、「どうしても生きている人間としてのリアリティが欲しいから、名前をつけたい。劇中では使わず、スタッフの間でしかその名前は呼ばないので」と言われて、映画化の際に初めて名前をつけたんです。その名前は本当に、世のどこにも出ていません。あんなに悩んで考えたの、自分の子供の名づけ以来でしたね。

岩谷そうですよね、子供同然ですよね、この作品が。

カツセ子供同然だから、どんな名前がいいだろうって深く考えましたね。

岩谷そんな裏話があったんですね。この作品はセリフがメインになるシーンが多いですが、主人公が傷心した時、2ページぐらいに渡る長ゼリフがありますよね。小説のセリフって、長くてもページの半分くらいというイメージで、左右のページをまたぐようなものってあんまり見たことがなかったので、すごく印象的で。でもなんかスーって入ってきて。逆に変な描写が入らずに間髪容れずに読む気持ちよさがあって。

カツセどこかで感情を爆発させるシーンを描きたいなと思っていて、どう表現するのがいいだろうと悩んでいたのですが、最終的にインパクトのある長ゼリフを置きました。ここは最悪、読者が読み飛ばしてもいいと思っています。編集さんにも「このセリフ長くないですか?」と言われましたが、「読み飛ばされてもいいからこのままいきたいです」と押し切ったんです。そうしたら、映画でもほぼそのまま、長いセリフとして描かれていましたね。
フラれた後って、気持ちを言語化しづらいじゃないですか。ただなんか「寂しい」とか「穴空いてる」としか言えなくて。ちょっと時間が経ってから、これだけ相手を好きだったんだって思いを言語化できる時が、一番泣ける。気持ちを言葉にしながら「俺はこんなに好きだったんだ」って、自分の言葉で自分の気持ちに気づかされていくんですよね。

岩谷どんどんエンジンがかかっていく感じというか、爆発してもう止まらない……みたいな。そのセリフの後の描写がめちゃ好きで。『岩谷文庫』の『気になる一文』にも書いたんですけど、「彼女を失って心に穴が空く」というところで、「くっきり彼女の形で穴が空いているから、その人でないと埋まらない」という表現がされていたんですけど、まさに「確かに」「今まで分かってなかったな」ってなりました。失恋もそうだし、何かしらの喪失感に遭った時、これまではただ「寂しい」としか言えなかったんですけれど、この本を読んだら「あぁ、その形で穴が空いているから、他のもの、例えばお酒とかに逃げても埋まらないんだ」って納得できて。1冊の中にいろんな発見があったんですが。これはカツセさんの経験の中からこういう言葉が出たんですか?

カツセ過去に大きな失恋をした時に、他の恋愛を求めたら埋まるかなと考えたことがあったんですけど、全然埋まらないし、似た人を探してしまったりする。しかも似た人を探すほど違いが明確になっちゃって、「この人じゃない」ってなってしまう。やっぱり空いてる穴はその人の形通りで、その人じゃないと埋められない。じゃあもう時間に癒やしてもらうしかないな、と考えたことがあって浮かんだセリフです。わりと過去の自分に向けて放っているセリフのような気がします。

岩谷この本を書かれて、どういう感覚になったんですか? 過去の自分が昇華される感覚ですか?

カツセそれ、よく訊かれるんです。「これを書いたことで、カツセさんはどうなりましたか?」って。でも、何も変わんない(笑)。小説は小説であって、それ以上の何かではないと思いました。書いたことで自分が変わるとか、成仏できたものがあるとかは全然ないです。この主人公も成長してないじゃないですか。物語書く時、「登場人物はどんな風に成長するんですか?」ってよく訊かれるんですけど、「人生そんな成長するかよ」って感覚が僕にはある。だから「何も変わらないけどなんとなく環境が変わった」っていうのを見せたいですね。

岩谷そうっすよね。二十数年間生きてきたら、そんな短期間で人が変わったようにはなかなかならないと思う。物語の中だったらあるかもしれないですけど。

カツセ小説を読んでて、最後主人公がハッピーエンドになった時に、僕は裏切られたなって思うタイプなんです。

岩谷あー、わかる。

カツセ「僕と同じ苦しみがあったのに、おまえだけ楽になりやがって」って思っちゃう。だから、自分が書く時は、救われないまま、立ち直れないままでいいから、ずっと寄り添ってくれるような話がいいと思って書いてます。

岩谷『明け方の若者たち』の一番最後のシーンで、主人公が「携帯電話なくしたみたいだ」っていう一文がありますよね。あれは本当に携帯なくしたんですか?

カツセそうです。あれは本当になくしていて、沖縄料理屋にあるっていう設定で書きました。最初のシーンが、彼女が携帯をなくしたところから始まって、最後のシーンが彼が携帯なくしたところで終わるんです。このお話は「主人公が携帯をなくす」という物語なので、彼女が主人公の物語なんですよね。で、最後の最後でようやく彼の物語が始まるっていう意味で「携帯をなくす」っていうドラマを置いたんですよ。

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岩谷……なるほど!

カツセ物語の主人公は彼のようでいて彼女であり、結末でようやく主人公が自分の人生の主人公になれるっていうのを書きたくて、ああいう曖昧な終わり方をしているんです。届く人にだけ届けばいいやと思いながら……。

岩谷どっちとも取れるなと思ったんですよ。本当になくしたパターンか、逆になくしてないけど、探してみるっていう。どちらであっても深いなと思って。だからそれを訊いてみたかったんです。

カツセその発想をした人はいなかったですね。

岩谷本当ですか?

カツセうん。僕自身も考えなかったかもしれないです。

岩谷僕自身は「なくしてない」方かなと思ってました。「携帯電話、なくしたみたいだ」っていうのが、ちょっと含ませてる感じだったので、いろいろ考える余地があるなと思ってて。

カツセ著者越えの考察ですねえ。もうそっちにしましょうか!(笑)

岩谷いやいや、おそれ多すぎて。勘弁してください(笑)。

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カツセラストシーンに関しては、映画化した時にグッズを作ることになって、その時に「何か書いてもらえませんか」って言われて、ラストから30分後の物語を短く書いたんです。それがまさに、明け方から朝日が昇ってきて、その朝日を写真に撮ろうとしたら、携帯がないし、携帯がないことを呟こうとしてもやっぱり携帯がない。じゃあ取りに戻るかっていうところで終わるんですよ。実際になくしたところから拾いにいく物語だから、いろんな意味を持たせられるかなと思ったんですけど、岩谷さんの話を聞くと、なくさずに持ってたほうがいいなぁ。

岩谷『明け方の若者たち』っていうタイトルもすごく好き。夕日じゃなく明け方っていうのがまたよくて。本当にこの表紙の色ぐらいの時間。主人公にとって「今から日が昇っていく」「人生が始まる」っていうリスタートの意味での明け方でもあるし、いろんな意味でじわじわくるタイトルというだなと。

カツセ最初はタイトル違ったんですよ。

岩谷えっ!?

カツセ全然違うタイトルがついてて、それが没になって。僕はそのタイトルにしたかったから「あとはもう何でもいいっすよ」って自棄になって、ヤケクソで50パターンぐらい考えたんです。そこから15個ぐらいに絞って、あとは人気投票をしました。そしたら「明け方の若者たち」が圧倒的に人気だったという。「みんながいいと思ってるならそれにしましょうか」ぐらいの気持ちで決定しました。とはいえ、書き終わってタイトルが嵌まった時に、「これしかないな」感はすごくあって。あ、今コメントで「この本買いに行っちゃお」って言ってくださってる方がいらっしゃいます。嬉しいです。ありがとうございます。

岩谷それ、DISH ⁄ ⁄ のドラムの大智からみたいです。

カツセ本当ですか!? すごい嬉しい。

岩谷映画も素敵ですし原作も素敵なので。まだまだもっともっと好きなところがあるんですよ。

カツセほんと恥ずかしいな! でも嬉しいですね。

岩谷素晴らしいんですよ、文章が本当に。「加点方式」の話もすごく好きでした。

カツセ人生減点方式ばっかりじゃんっていう中で加点方式、ゼロから積み上げていく人生にしたいなっていうのは、就職当時の自分が本当に思ってたことですね。総務部の仕事って100点満点が当たり前なんですよ。みんなの出勤データ確認して、労働時間チェックして、それができて当たり前の世界にずっといると、「そうじゃなくて、自分は褒められたいんだ」っていう気持ちになる。でもそれって加点方式じゃないと起こらないから、そういう仕事をしたいなと思っていました。そういう気持ちは本音で書いてますね。

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カツセさんセレクト、岩谷さんへのオススメ本3選!

岩谷すごいな本当に。もっともっと話したいけど。

カツセいや、嬉しいです。こんなに語ってくれる人はいなかったから、ちょっと自信が持てました。映画化までされて、いろいろありましたけど、やっぱデビュー作だし、初めて書いた小説なので、いつも不安だったんです。

岩谷デビュー作でこれ……本当にすごいですよね。みんな早速本屋さんに向かうって。

カツセありがとうございます。これに懲りずに頑張っていきたいなと思います。今回は僕、岩谷さんに紹介したい小説もあって。その話をしてもいいですか?

岩谷お願いします!

カツセ1冊目が、『きみだからさびしい』。大前粟生さんの恋愛小説です。以前から気になっている作家さんなんですけど、初めて正面から恋愛小説を書いてくださって、「これは『明け方』好きな人が読んだら楽しいかも」って思いました。なぜかというと、主人公が好きになる女の人がポリアモリー。「ポリアモリー」はご存じですか? みなさん。

岩谷なかなか聞き馴染みない言葉ですね。

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カツセ知らない方も多いと思います。「同意の上で複数の人とつきあうことを公言してる人」を「ポリアモリー」って言うんです。主人公は彼女のことを一途に好きなんですけど、彼女から見れば何人かのうちの1人という恋の物語。それだけで切ないのは確定じゃないですか。こっちがどれだけ思いを伝えても、彼女からしたら3分の1、2分の1にすぎないわけだから、しんどい! ってなる。他に出てくる登場人物も、いろんな方向に好意の矢印が向き合ってて、思い通りにいかない恋のしんどさが如実に書かれてる。
しかも登場人物のキャラクターがめっちゃ濃いんですよ。僕の話はリアリティを持たせたいから、登場人物はそこらへんにいそうな人ばっかりなんですけど、この物語に出てくる人は、小説ならではのキャラの濃さがあって、そこにすごく魅力を覚えるし、それでいてちゃんと人間くささがあったりもする。大前さんはこのお話を「恋愛するのって今怖くないですか?」っていうところから始めるんですよね。冒頭に、ストーカー被害に遭った女性の話が出てきて、でもストーカーをした男からしたら、それはただの恋なんだと。
片思いで、好きを伝えたくてあれこれした結果が、相手からしたら暴力であり加害である。このバランスの非対称性が、大前さんが提示したテーマのひとつなんです。そこまで大袈裟じゃなくても、僕らが誰かを好きになる時って、どこかで搾取的な考え方をしてたり、暴力的な捉え方をしてる可能性がある。

岩谷紙一重ですよね。

カツセそうなんです。で、相手と完全にフェアになることってほとんどありえないじゃないですか。両思いになったとしても、バランスって絶対違う。ウエイトがぴったり同じで恋したいと思っても、それは難しい。「恋に対してどうしていいのかわからない」とか、「愛って何なんですか?」と悩んでいる人たちにこそ読んでほしい、究極の恋愛小説だなと思っています。

岩谷カツセさんの言葉を聞いてから読むと、よりいいっすね。

カツセ頑張って説明の予習してきました(笑)。

岩谷僕も昨日タイトルをお伝えしていただいてたので、半分くらい読んだところです。おっしゃる通り、ストーカーと片思いって本当に紙一重で、思いが5対5ってなかなかない。どちらかが5.1でどちらかが4.9とか、イーブンに近いことはあると思うんですけど、絶対同じ熱量ってないなと思って。でも人はそれを恋というものに当てはめる。そう思うとちょっと怖いというか。しかも恋には逃げられない喪失感があるじゃないですか。『明け方の若者たち』もそうですけど、どんどん終わりに向かって思い出を重ねる感じがあって。形のある物って、絶対に永遠はないじゃないですか。それはもうどう頑張ろうと、人間である以上……。

カツセいつかは終わる。

岩谷そう。いつかは終わる、終わりに近づいてる。思い出を重ねていても、結局終わりに向かってるというのが切ない。めっちゃこじらせたみたいな言い方ですけど。

カツセでもそこに良さがあったりしますよね。刹那的な魅力に取り憑かれてしまうのが、恋であり人生でありって気もするんです。

岩谷だからこそ、今という一瞬を輝こうともがくのかもしれないですけどね。

カツセそれはこの本でもすごく感じたので、よかったら『きみだからさびしい』まず1冊目、読んでみてください。あとの2つはもっと重いやつ!

岩谷重いの大好きです!

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カツセひとつは、芥川賞を受賞された砂川文次さんの『ブラックボックス』という作品です。設定はわりと身近で、自転車便のメッセンジャーが主人公。Uber EATSなんかが流行って、街でよく配達バイトを見かけるようになりましたよね。
砂川さんの文章は、体の動きや視線の向かう先の描き方がうまい。とても肉体的なんです。メッセンジャーが自転車を加速させていく感じとか、まるで自分が自転車に乗っているような感覚が味わえます。読んでてピリピリしてくる感じがある。で、そういうお仕事小説なのかなと思っていたら、実はまったく違うんです。よく小説で「※」や「*」で場面転換を表すじゃないですか。あれが作中に一回だけ出てくるんですが、それがひとつ入った瞬間、まるで違う世界になるんですよ。
で、後半からが怒濤の面白さになって。「え? さっきまでの平和な日常はどこへ行った?」っていう極地に行き、なぜそこに行ったかまでがあとから描かれていく。後半を読んだ時のドラマの広がり方に「何この世界!」って絶望するし、でも身近にありそうっていう。隣で起きてしまいそうな事件が描かれていて、めっちゃ面白いんですよ。

岩谷めっちゃ解説上手っすね。読みたくなる説明をしてくださる!

カツセ今日は本当にプッシュしたい作品しか持ってきてないので(笑)。『ブラックボックス』や、次に紹介する『断片的なものの社会学』を読むと、自分がどれだけ平和な世界に生きてるかを実感できるんですよね。そしてその平和な世界がいかに脆く崩れやすいものかを実感できるのが『ブラックボックス』で。僕はこの物語の途中に入る「※」ひとつがブラックボックスだと思ってるんですよね。何かを経過した瞬間に違う世界になってるので。

岩谷ヒリヒリ感とかはね……。

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カツセすごく伝わってくるのでおすすめです。最後のひとつは、小説ではないんですけれども、『断片的なものの社会学』という岸政彦先生の作品です。この方は社会学者として働きながら小説やエッセイを書いてるんですけど、著書が本当に面白いんですよ。僕は社会学をめちゃめちゃ難しく考えていたし、実際難しいんですけど、この本読んだらあまりに面白すぎて「僕も社会学を学べばよかった」と思いました。
何をやっている本かというと、いろんな人に聞き取りをするんですよ。岸先生の専門は沖縄で、戦争当時の話をインタビューしていくんですけど、それ以外にもいろんな方たちにインタビューをする。その話から人生の断片が見え隠れするんですけど、聞き取りする内容があまりに濃すぎて。この時間にこうやってインスタライブを見ていられる平和なみなさんにこそ、刺さるだろうなと感じました。

岩谷ノンフィクションなんですか?

カツセ全部ノンフィクションです。例えば、この本に登場するある女性には、両親がいません。亡くなったのではなく、彼女がまだ小さい頃に、両親それぞれが別の相手と一緒になって、双方に子供ができたので、自分には親がいなくなってしまった。残されたのは自分を含めて5人きょうだいで、子供たちだけで暮らすことになって、一番上、高校生の姉が母親代わりになり、全員が交代でバイトや家事をしながら小さい弟や妹の面倒をみていた、と語ります。そういう話が、とにかく延々と続きます。

岩谷うわーすごい。でも面白そう。

カツセメディアに出てこない人の人生を一部切り取って、勝手に物語とかドラマっていう風に見てしまうのが既に暴力的な行為ではあるんですよね。この本はそうではなく、あるがままをひたすら書いてるだけ。そこに描かれてる世界を見ると、「自分が普段見てる世界は、同じような暮らしをしている人たちの世界でしかない」ということを教えてくれる。『断片的なものの社会学』、僕は2時間ぐらいで読んでしまいました。すごく読みやすいし面白いし、知らない世界がありすぎるっていう。大学生の頃って、すぐインドとかカンボジアに行こうとするじゃないですか。全然日本でいいです。日本にも知らない世界がいっぱいあるってことを教えてくれるので、そういう気持ちを味わいたい方に、『ブラックボックス』と『断片的なものの社会学』はぜひ読んでほしいな、と。もちろん、後者の作品はただのエンタメ作品として消費してほしくはないテーマの本なんですけどね。

岩谷『きみだからさびしい』は、今度『岩谷文庫』でもレビューをさせていただこうと思ってます。

カツセすごく楽しみにしてます。これを岩谷さんが読んだらどんな感想を抱くか聞きたいです。

岩谷この3作がおすすめだとカツセさんから連絡をいただいて、『岩谷文庫』を読んでいる層には絶対これだと思いました。

カツセある意味、見越して選んだんですよ。でも岩谷さんは以前に『テスカトリポカ』を読んで面白かったって話をされてたから、「この人は『ブラックボックス』や『断片的なものの社会学』も全然楽しめる人だと思って、岩谷さんに贈りたい気持ちで選びました。

岩谷個人的にはこちらの2作がめっちゃ気になります(笑)。でも、今期の『岩谷文庫』では、読者に寄り添った本も取り上げたいなあと思って。

カツセ僕自身、読書の入口に『明け方の若者たち』があればいいなと思って書いたところがあります。そこからいろんな本に繋がって広がって、もっと本に興味を持ってもらえたら嬉しいですし、岩谷さんみたいな方が読んで面白かったって言ってくださることで、ちょっとでも広がっていったらいいなって思います。まさに今コメントで「影響で小説最近買いました」と言ってくださる方がいますけれども、そうなってくれたらいいなと思いますね。

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それぞれの『本』との向き合い方――
「小説でNetflixに勝ちたいんです」

岩谷カツセさんはどういう本の選び方をするんですか?

カツセ本の情報収集はネットが多いですね。Twitterで書店員さんを複数フォローしてるんですけど、目利きの方がいて「これはすごかった」って書いてあるのが見えると、買ってみる。とにかく少しでも興味が沸いたらとりあえずポチって、読んでみるっていうのが多いです。あとは実際に本屋に行ってみてジャケ買い。表紙を見たり帯を見たり作者名を見たりあらすじ見たりして、自分に合いそうとか、今自分が知らないテーマだなと思ったりすると、買ってみようってなることが多いです。

岩谷結構量は読まれますか?

カツセ小説家の割に、読む量は圧倒的に少ないと思います。どちらかというと他のコンテンツから影響を受けてきたし、戦っていきたいのもそっちなんです。Netflixとか、本当に面白いじゃないですか。Netflixに小説で勝ちたいんですよね。そうしないとやっていけないと思ってるし。同じ小説の世界で戦いたい気持ちもあるんですけど、どうしたら『イカゲーム』よりこっちを読ませられるんだろうって考えてしまう。あとは、小説を読んでいたらカッコいいなって、もっと思ってほしいなとも思います。そういう感覚ありませんか?

岩谷あります。最初形から入りますよね(笑)。

カツセそれでいいと思う。電車で携帯を横にして見てる人よりも、文庫読んでる人の方がなんかスマートだって思ったら、最初はそれで全然いい。本の魅力に気付いてほしいなって思っています。

岩谷確かに僕も学生の時、最初は「モテるかな」「頭良さそうに見えるかな」っていうところから読書に入りましたね。読んでないのにわざと分厚めの本を買って、一方で休み時間にわーって遊んでたら、そのギャップでモテるんじゃないかなって思ってて(笑)。そこからちゃんと本にハマりましたけど。いろんな入口がありますよね。僕みたいなこすい入り方もある。

カツセこすくないこすくない(笑)。全然いいと思います。読書をもっと身近なものとしてとらえてほしい。どうしても文芸って高尚なものとして奉りすぎたところがあるから、「娯楽のひとつ」という感覚で読んでもらえたらいいなって思いますね。

岩谷そうすると『明け方の若者たち』はもってこいですよね!

カツセ本当にそのつもりで書いたところはありますよ。

岩谷これを読んだら、とりあえずフィルムカメラの「写ルンです」をね。

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カツセそうそう。27枚撮りの写ルンですを持ってデートしてほしいですね(笑)

岩谷あれを持って江ノ島行ってほしいですね!

カツセまさに聖地巡礼のように、「江ノ島デートをしてきました」って連絡くれる人がたまにいて、写真とか送ってきてくれて、すごく嬉しいですね。現実にある世界だからできることだなと思ったので。こういう小説、また書きたいなと思っています。

岩谷サイゼリヤでワインとか飲みたいですね。この本で初めて知りましたもん、「確かにサイゼ飲みできるな!」って。

カツセおすすめですよ、安いから。

岩谷間違い探ししましょう(笑)。

カツセぜひぜひ(笑)。

岩谷あっという間ですね。もう1時間経ちましたよ。

カツセ早いなぁ。話し足りない。ありがとうございます、みなさんもおつきあいいただいて。「もう少しでバイトだよ」とか、授業がある人もいるでしょうし。

岩谷すみません、カツセさんへの愛が溢れすぎて、コメントを無視して一時間喋ってしまいました。

カツセ楽しかったです!

岩谷本当ですか? ありがとうございます。

カツセインスタライブを切った後、続き少し話しましょう。

岩谷もちろん! いいんですか? 沖縄料理屋さんも行きたくなるなぁ。

カツセ『宮古』です。宮古2号店。明大前にあるのでぜひ行ってください。

岩谷あの店、本当にあるんですか?

カツセあります。僕もよく使ってて、そこで映画のロケができたとき本当に嬉しかったです。おかみさん僕のこと覚えてなかったですけどね!

岩谷宮古飲みしましょうよ。

カツセ宮古飲み行きましょうか。ぜひぜひ。じゃあ北村さん連れて。

岩谷最高ですね! ……すみませんみなさん、平日の真っ昼間に。

カツセありがとうございました。楽しい時間でした。

岩谷すごく深い話もできましたね。

カツセ想定外で嬉しかったです。改めて、こんな深い話だったんだって思いました(笑)。

岩谷著者のカツセさんに、失礼承知でめちゃめちゃいろいろ訊いちゃってすみませんでした。……ということで、あっとという間の1時間。カツセさん、改めてありがとうございました。

カツセありがとうございました!

岩谷『明け方の若者たち』、この本と、映画も今配信されています。カツセさん、今他にお知らせしたいこととかないですか?

カツセ一切ないです! 本当はね、新刊の告知したいなと思ったんですけど、まさに書き途中なので。次の本が出たら読んでください。

岩谷出たら僕も読みます!

カツセお送りしますよ。次の『岩谷文庫』も楽しみにしています。みなさんもぜひ見てください。

岩谷じゃあ、この後はプライベートで。ちょっと飯でも食いながら!

カツセ楽しみまーす。

岩谷ネタバレ込みのやつは、プライベートでやります! みなさんも平日のお忙しい中ありがとうございました。今から仕事の方、学校の方いらっしゃると思いますが、いい一日にしてください!

岩谷カツセ ありがとうございました!

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《今回紹介した本はこちら》

きみだからさびしい

大前粟生【文藝春秋】

町枝圭吾、24歳。京都市内の観光ホテルで働いている。圭吾は、恋愛をすることが怖い。自分の男性性が、相手を傷つけてしまうのではないかと思うから。けれど、ある日突然出会ってしまった。あやめさんという、大好きな人に――。圭吾は、あやめさんが所属する「お片付けサークル」に入ることに。他人の家を訪れ、思い出の品をせっせと片付ける。意味はわからないけれど、彼女が楽しそうだから、それでいい。意を決した圭吾の告白に、あやめさんはこう言った。「わたし、ポリアモリーなんだけど、それでもいい?」

きみだからさびしい

ブラックボックス

砂川文次【講談社】

ずっと遠くに行きたかった。
今も行きたいと思っている。
自分の中の怒りの暴発を、なぜ止められないのだろう。自衛隊を辞め、いまは自転車メッセンジャーの仕事に就いているサクマは、都内を今日もひた走る。

昼間走る街並みやそこかしこにあるであろう倉庫やオフィス、夜の生活の営み、どれもこれもが明け透けに見えているようで見えない。張りぼての向こう側に広がっているかもしれない実相に触れることはできない。(本書より)

第166回芥川賞受賞作。

ブラックボックス

断片的なものの社会学

岸政彦【朝日出版社】

路上のギター弾き、夜の仕事、元ヤクザ…人の語りを聞くということは、ある人生のなかに入っていくということ。社会学者が実際に出会った「解釈できない出来事」をめぐるエッセイ。

断片的なものの社会学