岩谷文庫 ~君と、読みたい本がある~
岩谷文庫

岩谷文庫 ~君と、読みたい本がある~

橘ケンチ

2009年、EXILEにパフォーマーとして加入。2012年からはEXILE THE SECONDのリーダーを兼任。舞台『魍魎の匣』(2019)主演・中禅寺秋彦役など、俳優としても活躍のほか、日本酒の魅力を伝える『SAKE PROJECT』や“本好きな皆さんと一緒に創り上げる書店”をコンセプトにした『たちばな書店』を主宰するなど多角的に活動。
2021年、『福井市食のPR大使』に就任。また、ガイドを務める旅番組『EXILE NUDE』がHuluで独占配信中。

岩谷翔吾

2017年、総勢16名からなるダンス&ボーカルグループ・THE RAMPAGE from EXILE TRIBEのパフォーマーとしてデビュー。映画「チア男子‼」への出演など演技に挑戦するほか、日本将棋連盟三段や、実用マナー検定準1級の資格取得など趣味多数。
2021年2月より、webマガジンCobaltにてブックレビュー『岩谷文庫』連載をスタート。ダンスのみならず活動の幅を広げている。

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事務所きっての読書家のお二人。EXILEが繋いだ、世代を超える縁

岩谷みなさんこんにちは。今日は岩谷文庫特別配信ということで、僕の大先輩、橘ケンチさんに来ていただきました!

ケンチ『岩谷文庫』に呼んでもらえて嬉しいなぁ。ありがとうございます。

岩谷先日、たまたま事務所でケンチさんにお会いして、そこで本の話をしていて。ケンチさんが「『岩谷文庫』の対談に呼んでよ」なんて言ってくださったので、ダメ元でマネージャーさんに話してみたら、スムーズに話が決まりました。

ケンチ駄目なわけがないじゃない。断る理由がない(笑)。

岩谷ケンチさんもお忙しいので…本当にありがとうございます。

ケンチみんな本は好きだけど、公言して本の活動している人って、俺と翔吾ぐらいじゃん。だから、いつかこういう話をしたいと思っていた。

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岩谷まさかこんなすぐに決まると思ってなかったので、嬉しいです。岩谷文庫の特別配信では、ゲストの方と本のことを中心にいろんなお話をさせていただいてるんですが、ケンチさんが本を好きになったきっかけは? 学生のころから結構読まれていたんですか?

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ケンチ中学生、高校生のころは全然読んでなくて。漫画が多かったですね。ただうちの父親がことあるごとに「本だけは読んでおけ」っていう人だったから、それがずっと自分の中に残っていて、大学生ぐらいからちょこちょこ読むようになって。ダンサーとしてこういう世界を目指し始めたぐらいから、読書量がすごく増えました。当時の自分は乗り越えなきゃいけないものがいろいろあって、でも、あまり人に相談できるタイプじゃなくて。きっと、その答えを本に求めたんだろうね。だから、自己啓発本とかも結構読んだし。20代半ばぐらいからは、本にいろんなヒントや学びをもらうようになりました。

岩谷その時はもうEXILEとして活動されていたんですか?

ケンチいやまだ全然。EXILEと出会って初めて一緒に仕事をさせてもらって、こういう世界もあるんだと思って目指し始めたぐらいだから、EXILEに入る4~5年前ぐらいじゃないかな。自分たちでダンスしながら、別の仕事もしながら、日々追いかけていたころだね。

岩谷ケンチさんって、EXILEに加入されたのはおいくつの時ですか?

ケンチ2009年3月1日だから、28歳か29歳の頃かな。翔吾はまだ25でしょ? その歳だと、まさに二代目 J Soul Brothersが結成された頃かな。

岩谷じゃあ、その頃のケンチさんに、小学生の僕がお会いしていたのかもしれないですね。

ケンチそうね、まだ翔吾がこんなに小さくて!

岩谷本当にちっちゃい時に(笑)。

ケンチ「この子はすごいな」と思って見ていた頃だよ。

岩谷武者修行の一環で大阪に来てくださった時に、EXPGでワークショップをやっていただいて。

ケンチやったやった! あと、EXILEの「Choo Choo TRAIN」のPVに出ていたでしょ。その時に僕らがキッズのアテンドをやっていて。翔吾とか(藤井)夏恋とか、みんなそこにいた思い出があるな。

岩谷ちょうど先日、『CL25』のEXILE20周年企画で、昔のMVを振り返ろうっていうコーナーがあったんですけど、あれヤバいですよね(笑)。

ケンチ翔吾は結構出てるでしょ(笑)。

岩谷そうですね、「銀河鉄道999」、「Choo Choo TRAIN」に出させていただいて。その後に(奥田)力也や(砂田)将宏たちが出てきて、いろんな時代の相関図がありますね。

ケンチ翔吾はずっとEXILEの近くにいたイメージがあるな。

岩谷大好きだったので!

ケンチライブとかもずっと出てくれていたし。実は昔から翔吾のこと、「この子はいつか関節取れるんじゃないか」ってずっと心配していた。他のメンバーも思っていたと思うけど。キッズダンサーって、力いっぱい元気いっぱいに踊るから加減を知らないじゃん。見ていてすごいなと思うんだけど、その中でも人一倍すごかったのが翔吾。誰よりも一番前に行って、首ぐるぐる回して踊って。この子上手いけど、将来身体がおかしくならないか心配だなぁと(笑)。

岩谷ほんとですよね……(笑)。

ケンチでもそのスタイルをずっと貫いたままTHE RAMPAGEになった。

岩谷25歳をこえて、さすがにちょっと怖くなってきたので、首を回すのはなくしてきているんですよ(笑)。で、トレーナーさんと話した結果、激しい曲は抑えて、ミドルの曲をはち切れようと。激しい曲は火とか特殊効果もあるから、逆に抑えめぐらいで100%になる。そこでやりきろうとすると、120%まで行っちゃうので。身体のこと考えて、ちょっと抑えた方がいいね、と。

ケンチミドルっぽい曲をしっかり踊る方が伝わるっていうのもあるしね。

岩谷最近は効率を求めて首をいたわりながらやっています(笑)。

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本好きが本好きに薦める3冊。
美容院のシャンプー台に持ち込むほどの面白さとは?

ケンチところで、俺たちここまで全然本の話してないね(笑)。

岩谷もう10分経っちゃいましたね。そんな風にいろんなご縁があるケンチさんなんですけども、いよいよ本の話もしていきたいと思います。今日は僕とケンチさんの双方で、おすすめの本を3冊用意してきました。まず、僕が最近読んだおすすめ本の話をして大丈夫ですか? 最近というか昨日、美容院で4時間ぐらいかけてパーマを当てながら読んだ本。もうほやほやです。

ケンチパーマ当てながら本を読んだの!?

岩谷当てながら読みました! 染井為人さんの『正体』という本で、600ページくらいあって分厚いんですけれど。それまでに100ページくらい読んでいて、面白すぎて。残りはパーマ当てている間に一気読みしちゃいました。

ケンチえ!? 残り500ページを4時間で読んじゃった!? 相当すごいね。

岩谷はい。もう、シャンプーの時も「持ってっていいですか?」って聞いて、シャンプー台で仰向けになりながら読むぐらい。

ケンチちょっとそれ、美容師さんやりづらいんじゃ……。

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岩谷めちゃめちゃ迷惑だったと思います(笑)。でもそうせずにいられないぐらい、めちゃくちゃ面白くて。読み立てほやほやの熱のまま、こちらの本のあらすじをお話します。ある時、一家殺人事件が起きてしまう。4人家族のうち3人が殺され、犯人は捕まって死刑判決を言い渡されます。ところが、その犯人が脱獄してしまうんです。脱獄した犯人は、工事現場やスキー場の住み込みバイト、新興宗教の説教会、人手不足の介護施設など、様々な場所へ名前を変え姿を変えて転々としていく。そして彼が最後にたどり着くのが、一家殺人事件で生き残った最後の一人のところなんです。

ケンチそれは意図的に?

岩谷意図的に、です。犯人は、生き残った人になぜ会いにいったのか。なぜ脱獄したのか。彼の本当の「正体」はなんなのか。

ケンチそれがタイトルになっているんだ。めちゃくちゃ面白そう!

岩谷めちゃくちゃ面白いんですよ。ここでラストまで話してしまいたいぐらいです。ただ犯人が逃亡を続ける本ではないんです。逃げている人ってコソコソしているイメージがあったんですけど、彼は堂々と人と関わりにいくんですよ。そして、その場所場所で、そこにいる人のためになる行動をするんです。人助け、その人にとってプラスになるようなことをしていく。周りの人たちは、「あれ? この人、全国指名手配になっているあの男に似てるな…?」って思うんですけど、「この人がまさか殺人犯なわけない」って。

ケンチいい施しをされているからね。

岩谷はい。関わった相手は情が湧いて、警察に犯人がいないか訊かれても「いません」って匿っちゃうぐらい、愛情深い人なんですね。その人が、自分が起こした殺人事件の生き残りに会いにいく理由と、この人の本当の正体は何なのかっていう。

ケンチそもそもその一家3人を手にかけた理由もあるだろうしね。……気になるなあ!

岩谷このラストを美容室で読んだんですけど、涙が出そうになって。でもさすがに美容師さんもいたので泣くわけにいかなくて、必死にこらえました。

ケンチそれ泣いて欲しかったな(笑)。美容師さんも「なんでこの人泣いてるの?」って思っただろうね。

岩谷もしそうなら、めちゃくちゃイタい客ですよね(笑)。

ケンチでもいいんじゃない? それだけ没頭しちゃうってことは。

岩谷本当に、久々にこんなに一気読みしたくなる本に出会ったなと思いました。分厚いので、普段本を手にしない方にはハードル高めに感じるかもしれないですけれど、すごく面白いのでおすすめですね。染井さんは、もともと芸能プロダクションに勤めていて、マネージャーや舞台のプロデューサーをやっていたらしいです。

ケンチ著者の染井為人さんの、他の作品も読んだことあるの?

岩谷ないんです。これが初めてで。

ケンチ今コメントで「どうしてその本を読もうと思ったの?」だって。

岩谷この本、WOWOWで映像化されているんですよ。それはまだ観ていないんですけれど、話題になっている作品だったというのが手に取ったきっかけです。

ケンチ映像化されているのを知って、ってことか。

岩谷そうなんですよ。すごく読み応えたっぷりで。この本のラストには、誰しもがクゥ……となると思います。『正体』、これが一冊目のおすすめ本です。

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ケンチめちゃめちゃ読みたくなった! ミステリーってことでいいのかな。

岩谷ミステリーですね。でも、ほぼほぼ人間ドラマなんですよ。刑事ドラマっぽさとか、殺人の描写とかは全くなくて。逃げている中で出逢った人との話が、どんどん数珠繋ぎに繋がっていく作品です。

ケンチ翔吾は「小説」が好きなんだ?

岩谷そうですね。小説が好きです。自己啓発本とかも昔は読んでいましたけれど、最近は小説をがっつり読むようになりました。

ケンチその小説の世界観に没頭していくのが好きなんだ。雑誌とか漫画も読む?

岩谷漫画は結構読みますね。では、ケンチさんのおすすめ本のお話もお聞きしていいですか。

ケンチじゃあ、これから行こうか。京極夏彦さん『魍魎(もうりょう)の匣(はこ)』。分厚い!

岩谷これはすごいですね! 何ページあるんですか? 

ケンチ相当あるんですよ。1048ページ。

岩谷すごいですね!? 1000ページ超えている本なんて、読んだことないです。

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ケンチこれは、京極夏彦さんの「百鬼夜行」シリーズの中の1本です。主人公は「京極堂」って呼ばれる陰陽師、憑きもの払いをする人。設定だけ聞くと霊的な話かなと思うだろうし、そういう側面もあるんだけれど、主人公は事件の中にある事実を捉え、論理的に解明していって、事件を解決する=憑きものを祓う。この主人公がまた魅力的でね。京極堂のチームにあと木場っていう刑事と、榎木津っていう躁鬱の「躁」――常に明るい人、あと関口っていう作家。その4人がメインのメンバーとなっていて。
>京極先生のデビュー作がシリーズ最初の『姑獲鳥(うぶめ)の夏』で、これは2作目。すごくいろんな賞を獲られた作品だよね。あとは『絡新婦(じょろうぐも)の理(ことわり)』とか『狂骨の夢』とか、10作品ぐらいのシリーズになっている。僕はこの作品を2018年に舞台化させていただいて、京極堂を演じさせてもらったっていうのもあって、すごく思い入れが深い作品です。

岩谷コメントにも、舞台を観た、舞台がきっかけで読んだって方が結構いらっしゃいます。

ケンチありがとうございます! (コメントで)「会社員やりながら書いた京極先生すごいよね」だって。そうそう。

岩谷そうなんですか?

ケンチ確か京極先生はもともとデザインの仕事をされていて、仕事しながら『姑獲鳥の夏』を最初に書いて出版社に送ったそうで。それを見た編集者が、完成度の高さに「名のある作家が名前を隠して送ってきている」と思ったらしい。

岩谷すごいですね。そういう才能のある方が眠っているものなんですね……。「またケンチさんの京極堂が観たいです」ってコメントも来ています。

ケンチこれは本当におすすめです。舞台もまたやりたいなと思っています。怖い話といえば怖い話です。1995年刊行で、今から30年近く前の作品なんですけど、当時はエンタメ小説として扱われていたらしい。

岩谷95年か……97年生まれなので、まだ僕生まれてないですね。

ケンチぜひこの分厚さにトライしてみてください。

岩谷本の小口にプリントされているのは何ですか?

ケンチこれはタイトルにも出てくる「魍魎」が人間を食っている姿。結構おどろおどろしいんだけど、この絵のことも小説の中に出てきます。そして僕はこの本に京極先生のサインをいただきました。

岩谷すごい! かっこいい! 達筆ですね!

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ケンチ宝物です。夏は暑いから肝試しとか怖い話とかするじゃん。怖いの種類は違うかもしれないけど、夏に京極先生の作品を読むのはアリかなと思います。

岩谷これはぜひとも。……結構怖いんですか?

ケンチ言ってしまえば、貞子とかの怖さとは違うんだよね。人間の中に潜んでいる「魍魎」とはいったい何なのかを最後まで問い続ける。魍魎って言ったら、いろんなものの怨念が形となったおどろおどろしい物を想像するけれど、最終的に恐ろしいのは人間だよねと。
物語の中ではいろんな事が起こります。恋愛もあるし、人が死んだりもするし。あと「匣」。これがキーワード。

岩谷初めて見た漢字ですね。

ケンチこれぐらいのサイズの箱の中に、手足を切断された女の子が入っている。でもその子はその状態で生きているんです。なんで生きてるんだろう、そして彼女を箱に入れたのは誰なんだろう。その箱に詰め込まれた女の子を見て、また違う衝動に駆られる別の人物も現れるわけで。現実的に手を下した人もいれば、いろんな人の負の感情が原因になって起こったこともあり、そういうものがどんどん連鎖して、いろんなことが起きていくのを、主人公の京極堂が論理的に解決していく。

岩谷ちょっと待って、めちゃくちゃ面白そう!

ケンチめちゃくちゃ面白いよ。読んだら「よくこんな物書きますね!?」って感じ。ここまで考えますかと。

岩谷読後感はいいんですか?

ケンチ両方ある。スカッとする感じ、爽快感もあるけど、ちょっと残る感じもある。人間って何なんだろうな…みたいな。かなりテーマ性の深い作品だと思います。

岩谷その女の子が気になります。…生きているんですよね?

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ケンチ『魍魎の匣』は映画化もされているね。気になった方は読んでみてください。

岩谷「きちんと解決するのでそこはご安心を」「人の生きるという意味と欲」……コメント欄も、みなさんすごいですね。秀逸な感想。

ケンチ(コメントを読んで)「何だか羨ましくなってしまった」って、これも女の子の匣を見たある人物が言う、キーワードなんです。

岩谷へえ~っ!

ケンチ結構キラーワードが多いのよ。本当に京極作品が好きな方は、その台詞を聞くと「ああ、あの時の台詞だね!」ってなる。

岩谷やっぱりいい作品はいい台詞を残しますもんね。

ケンチそう。だから舞台をやっても成立するし。

岩谷舞台映えしそうですね!

ケンチキャラクターが強いのよ、みんな。気難しくていつも眉間に力を入れている、世俗と関わらない陰陽師と、真面目で石頭で体格のいい刑事と、いつも明るくて人を惑わすような美青年の探偵さんと、気弱で常に周りをキョロキョロしながら小説を書いている小説家。その4人がチームになっていろいろな問題を解決していく。彼らのキャラがすごく面白い。

岩谷一人ひとりキラーフレーズがあるんでしょうね。

ケンチ一番最後の京極堂の台詞がめちゃくちゃいい。俺も舞台で最後に言った台詞なんだけど、最後まで「この台詞の意味なんだろうな」って自問自答しながら言っていた。今でもちょっと分かっていないのかもしれない。

岩谷それは本編にふれる台詞ですか?

ケンチそうだね。

岩谷じゃあここで言うのはネタバレになっちゃいますね。でも気になるなぁ! 「読みたくなる!」ってみなさんも言っていますね。ありがとうございます。
では、僕の2冊目、行かせていただきます。朝井リョウさんの『正欲』!

ケンチああ、それ俺も読みたかったやつ! 読んでおけばよかった!

岩谷この本は「読み終わった後に引きずられる本ナンバーワン」ですね。今まで読んできた中で、一番しんどい本でした。余韻がすごい。オビにこんなキャッチフレーズが書いてあるんですよ。「読む前の自分には戻れない強烈な読書体験。これは特別な本です」。自分自身、読む前には戻れなくなりました。いろんなタイミングでいろんな人と接しても、この本が引っかかるような感覚になったりするぐらい半端ない本で。
ざっとあらすじを話しますと、「多様性」の話です。多様性というと、LGBTQなどもそうですけれど、みんながみんなを認め合いましょうということ。そしてこの本のキーワードは「水」とか「蛇口」。登場人物は、異性に性的欲求を抱かない人たちです。自分たちが「正しい」としている「常識」ってありますよね。そういうものに対して「果たしてこの『正しい』というのは誰が決めたんだろうな?」って思ってしまう本です。自分が少数派の方々に対して線を引いて「これはダメでしょ」って決めつける行為。それは、自分が多数派だから言えるんだよなとか、自分が少数派だったらすごく息苦しい生活、普通に生きているだけでつらくなるんだなと、すごく考えさせられる本でした。

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ケンチタイトルの『正欲』、それは「正しい欲」ってことでいいの?

岩谷そうです。「せいよく」っていうと本来は性別の性に欲で「性欲」だと思うんですけど、自分の考察では「正しい欲」とは何なのかを問いただされている本です。人間の繋がりを生むために家庭を築いて子供を産んで、子孫を残して…人間として良しとされている行動には、必ず性欲がつきまとう。しかしその性欲とは果たして正しいのか。
たとえば、この本に出てくる人々は「水」で興奮を覚える。ホースの先を握った時の水の動きや、蛇口をひねった時に出てくる水の動きなど、水の流動性に興奮を覚えるんですよ。異性に対して興奮を覚えるように、輪郭がない動きをする水に興奮する。それで彼らが社会に迷惑をかけているかというと、別に迷惑はかけていない。でも、「ちょっとあの人は異質だな」と思われる。だから周りに打ち明けられなくて自分一人で抱え込むんでしまう。そのいろんな連鎖で、人が人を裁くというお話です。

ケンチ水に対して感じてしまう人? それは物語の中でどう展開されていくの?

岩谷水が好きな人が作ったものが、YouTubeのコンテンツにありますよね。水だけを10分間映したコンテンツとか。僕らは何気なく見ているけれど、そういう人からすれば水フェチコンテンツになる。で、他人には理解されないから、互いに理解し合える水フェチ同士でコミュニティを作ろうとするんです。彼らは水をかけあったり、その様子を写真や動画に撮ることに興奮を覚えるので、集まって写真や動画を撮ってたんですけど、それが最終的に児童ポルノに引っかかってしまって、全員捕まってしまうんです。でも、その水好きからしたら、子供には興味はない。子供ではなく「水」を撮っていた。でもそう話しても警察は信じてくれないわけです。

ケンチマイノリティがいくら主張しても、大多数の人からは「そんなことありえない」と認められず切り捨てられて裁かれて。

岩谷まったくその通りです。

ケンチなるほどね。確かに、民主主義の社会では「多い方が偉い」っていう風潮もあるけど、少数派である本人にとってはそれが「正しい欲求の方向」なんだもんね。それを「なんでこれが間違ってるんだろう」って思う人は絶対いるもんね。

岩谷欲求を満たそうとしているだけなんですよ。僕らが美味しいごはんを食べて美味しいお酒を飲みたい、って思うのと同じように「水を見たい」っていうだけなんですよね。

ケンチ翔吾には何かないの? 「自分は好きなんだけど、全然人に理解されない」っていうもの。

岩谷えーっ…? なんでしょうね……? それ迂闊に変なフェチとか言えないですよ!(笑)危ない!

ケンチ自分は「悪い」とすら思ってない可能性があるからね。普通に言ったことが、相手に「え…?」って言われるってことでしょ、それ。THE RAMPAGE、16人もいたら相当いろいろあるんだろうなぁ。

岩谷じゃ、それは今度日本酒を飲みながら、『裏岩谷文庫』で。

ケンチいいね! やろうか、「お互いの『正欲』を話す」っていうの!

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博覧強記のケンチさんが語る、「発酵」から「京都暴動」まで

岩谷『正体』『正欲』と、僕からは重ための本が2冊続いてしまいましたが、ケンチさんからもお願いします。

ケンチちょっと趣向を変えてこれにしましょう。『発酵文化人類学』。発酵ってわかる?

岩谷ヨーグルトみたいなですか?

ケンチそう。ヨーグルトも日本酒もワインも発酵。この本は小倉ヒラクさんっていう人が書いてるんだけど、小倉さんってもともとデザイナーなんだよ。その人がひょんなことから発酵にハマって、世界で唯一の「発酵デザイナー」と名乗り始める。日本って実は発酵大国で、田舎の町にこんな漬物があるとか、港町にこんな魚の発酵のさせ方があるとか、メジャーではないものもたくさんあるわけ。
小倉ヒラクさんは、そんな日本の発酵食品を、自分の足で巡って探して「こんなものあるんですか」って物まで集めて、以前渋谷のヒカリエで発酵展示みたいのをやってたんだよね。今はそれを進化させて下北沢のBONUS TRACKで「発酵デパートメント」という店をやってるんだよ。2階は「B&B」って本屋になってるんだけど。

岩谷あっ! そこ、知っています。

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ケンチ小倉ヒラクさんの「発酵デパートメント」、お酒からワインから味噌、醤油、日本中の発酵にまつわるものが全部集まっていて、すごく人気のお店なんだよ。そして『発酵文化人類学』は、「発酵」についてヒラクさん的に体系立てて書かれた本。
発酵って、要は微生物のはたらきなんだって。この世の中には、人間が想像する以上に微生物がめちゃめちゃたくさんいて、身の回りにもたくさんいる。でも実は発酵のメカニズムってあまり解明されていなくて、微生物が食品に何かしらの作用を起こして、結果、人間にとっていいもの、美味しく感じるものになると、それを「発酵」って呼ぶんだって。逆に、味が変わったり腐ってしまったりするのが「腐敗」。だから「発酵」と「腐敗」は紙一重なんだよね。気温や湿度、微生物の種類などいろんな要素、複雑なメカニズムがあって、発酵するか腐敗するか、人間にとっていいものになるか悪いものになるかっていうのを、小倉ヒラクさん的にいろいろまとめて書いてるのがこの本。俺、解説を書かせてもらったんだけどね。

岩谷あ、オビも!

ケンチそう。ものすごく面白い本。「発酵」っていうものに目を向けると、きっと「この世の中ってすごくない!?」って思うよ。

岩谷確かに、自分が「発酵」にフォーカスしたことはこれまでなかったですね。

ケンチ俺が好きな日本酒も発酵文化なのよ。酵母とか麹とか、いろんな菌が作用する。日本酒って、人間が自分の手で作るってみんな思っているかもしれないけど、最終的には微生物が作るんだよね。人間がいい発酵をする環境をある程度は整えて、あとは微生物にお任せする感じ。『日本書紀』とか『古事記』の中だと、お酒って自然に生まれたもの、神様が力を加えてできたんだっていう感覚なんだよね。だからお酒は神棚に祀られて神様にお供えする縁起物として扱われることが多い。

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岩谷なるほど!

ケンチでもそれは、実は微生物の働きがキーになっていて。そういうことがこの中に面白くまとめてあります。

岩谷すごいですね! 発酵=身体にいいイメージがあります。

ケンチそうだよね、ヨーグルトのビフィズス菌とか、いろいろあるけど。そういうものをより詳しく知っていくと、身の回りに「これも、これも」って発酵したものがたくさん見つかると思う。

岩谷自分に合う菌とか見付けるといいかもしれないですね。自分の腸と相性のいい微生物とか。

ケンチコロナが流行った当初に、どこかの大学の教授が、「コロナに発酵食品が効く」っていう論文、ニュース出したりしてたもんね。発酵が人間の身体にいい作用をもたらしてくれる可能性は大きいと思うから。普段から発酵食品を口にすると、なんか良さそうだなと思う。こういう本を読むと、それがより実感をもってわかるから。

岩谷面白い。いいですね! 自分の身体を作るのは自分が口にしたものですからね。

ケンチそうだよ。だって俺らパフォーマーだもの。自分の身体は大事にしてあげないと。

岩谷大事にしたいですね。ホラーっぽいものから発酵まで、いろんな本の種類の振り幅があって助かります(笑)。 せっかくなので、このままもう一冊も。

ケンチ何でも読むんで、俺は。もう一冊はこれ。佐藤究さんの『Ank : a mirroring ape』という本です。

岩谷これ、気になっていました。僕、佐藤究さんの『テスカトリポカ』を読んで。

ケンチ『テスカトリポカ』の前が『Ank:』だね。最初の『QJKJQ』で江戸川乱歩賞を獲られて、そしてこの『Ank:』。実は俺、面白いご縁があって、佐藤究さんにお会いしたことがあるんだよ。さっき言った舞台『魍魎の匣』を俺がやるきっかけになったのは、作家の丸山ゴンザレスさんなの。「舞台やろう」って話が出た時に、ゴンザレスさんに「いい作品ないですかね」って尋ねたら、「自分は推理作家協会に出入りしていて、京極夏彦先生と面識がある」って言ってくれて。
それがきっかけで、京極先生のご自宅にお伺いしたことがあったんだよ。その時に、究さんも一緒だったの。もともと究さんが京極先生とすごく仲良くされていて、究さんとゴンザレスさんも仲がよくて、僕はみなさんが集まるところへ金魚のフンみたいに一緒についていった感じでした(笑)。その時に『魍魎の匣』の話をさせてもらって、おかげで舞台化できたんだよ。

岩谷そうだったんですね!

ケンチそこで究さんとのご縁もできて、作品も読ませていただくようになったんだけど、中でも俺は『Ank:』がすごい好き。究さんは、頭の中を覗いてみたいぐらいすごい物を書かれるよね。『テスカトリポカ』もリアルな感じがすごいじゃん。

岩谷いや、本当にすごかったです。

ケンチでも、実はあれ、究さん現地に行ったことないんだって。

岩谷えっ、ないんですか!?

ケンチって、俺はゴンザレスさんから聞いたよ。ゴンザレスさんからいろんな情報を聞いて調べて書いたらしい。

岩谷それを作品にしたっていう感じなんでしょうか。

ケンチ『Ank:』の紹介に戻るけど、これは一匹の猿がすべての始まりなの。一匹の猿の出現によって、京都中の人の人格が変わっちゃって、全員で殺し合いを始める大暴動が起きるっていう世紀末みたいな話。チンパンジーと人間って、DNAがほぼ一緒らしいんだけど、なぜ人間がこんな風に進化して文字も書けて、チンパンジーとは一線を画する存在になったのかというところに切り込んでる。
タイトルの「ミラーリングエイプ」――鏡像認識っていうんだけど、鏡に映る自分のことを自分だと判断できるかどうか。そこが大きな違いなんだと。チンパンジーっていうのは、池の水面とかに映った自分を自分と認識できない。でも人間は鏡に映った自分を自分と認識できる。

岩谷あー、なるほど。

ケンチ主人公は、それを研究している霊長類研究学関係の人なのね。そんな中で、一匹の猿がアフリカから日本に運び込まれ、その猿が原因になって暴動が起こる。なぜそんなことが起こったのかは、実は彼が研究していた「鏡像認識」や人間の遺伝に関わっている。一匹の猿が、普通のチンパンジーよりもちょっと進んだ存在になっていて、その猿の存在が何かを引き起こしてるんじゃないのか…っていう風に、だんだん真相に迫っていくんだよね。いつかハリウッドで映画化して欲しいぐらい、めちゃくちゃ面白いんだよ。

岩谷確かに。すごいっすね!

ケンチ結構難しい内容だから、何回か読まないと俺もちゃんと理解できなかった。

岩谷中身は結構理系なんですか? そんなこともない?

ケンチ研究色は強いかな。だから文系理系で言うと理系かもしれない。でも数字とかが出てくるというよりは、考え方。哲学とか、人類の歴史とか、人類がどうやって進化してきたかに触れている。

岩谷面白いです。「鏡に映った自分を認識できるか」が基準になるんですね。

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ケンチ究さんは読ませる力がすごいね。その世界がよくわからなくても読み進めちゃう感じがすごいと思います。

岩谷確かに。映像化向いてそう。

ケンチこれはいつかやって欲しいなと思いますね。

岩谷僕が好きな『テスカトリポカ』を映像化すると、25禁ぐらいになってしまいそう(笑)。実は前回の「岩谷文庫」の配信ライブの時に、『テスカトリポカ』をおすすめしたんですけど、THE RAMPAGEのファン層と『テスカトリポカ』がちょっと合わなくて(笑)。

ケンチ「ちょっと」どころか「だいぶ」合わなそう(笑)。

岩谷みなさんから「翔吾くん大丈夫?」みたいなリアクションが結構ありました(笑)。病んでいるわけじゃないんですよ?

ケンチ『テスカトリポカ』もめちゃくちゃ面白いよね!

岩谷はい、めちゃくちゃ面白いです!

ケンチあれは、読めるなら絶対読んだ方がいい。

岩谷ただグロいとか怖いっていう作品じゃないんで。ちゃんと読み進めれば、むしろ温かいというか、ラストには人間の温かみみたいなものをすごく感じました。

ケンチこんなことを書ける作家がいるんだ、ってことにまず感動する。

岩谷感動しますよね! 佐藤さんってどちら出身なんですかね? 『テスカトリポカ』が川崎とかの描写だったので川崎なのかなと思ったら、『Ank:』は京都ですもんね。

ケンチどこなんだろう? 訊いたことなかったな。

岩谷気になりますよね。でも、地元ではない土地をそこまで書けるってすごいですよね。

ケンチ情報収集力がすごいんだよね。『テスカトリポカ』直木賞獲ったしね。いやびっくりした! 才能ある人だと思っていたけど、こんな短期間で直木賞まで行った! って鳥肌立った。その前にお会いしていたから、速攻でおめでとうございますのメール送ったもんね。……あ、出身は福岡だって。

岩谷じゃあ、川崎も京都も全然違う。すごいですね。

ケンチこれだけリアルに書けるんだもん。

岩谷すさまじい。ほんといろいろとお話聞けて、興味深いです。

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受け継がれる旅の浪漫。そして『裏・岩谷文庫』へ……?

岩谷事前に、今日ケンチさんにご紹介頂く本のリストをいただいていたのですが、その中の一冊を『岩谷文庫』でレビューさせていただこうと思っています。その本がこちらでございます。『深夜特急』、読ませていただきました。めちゃくちゃ面白かったです。だし、コロナで旅の制限があったから余計に、こういう旅してみたいなと思って。ケンチさんがこの本を読んだのはおいくつぐらいの時ですか?

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ケンチ俺が『深夜特急』を知ったの、最初は本じゃなくてドラマだったんだよ。小学生か中学生ぐらいの時に、大沢たかおさん主演でドラマをやっていて。大沢さんがバックパック背負って、東南アジアの国を汗をかきながら街を歩いている映像だったんだけど、その時にすごく不思議な感覚があって。まだ大沢さんのこと詳しく知らなかったし、役者って言う認識もなくて、普通に旅人なんだろうなと思って見てた。

岩谷つまりノンフィクションだと…。

ケンチそうそう。後からドラマだと気付いたんだけどね。で、そのドラマの映像からにじみ出てくる東南アジアの熱感と湿気感と汗の感じとかがすごく印象に残っていて、一度本で読んでみようと思って、読んでみたらめちゃくちゃ面白くて。本からこんなに湿度や気温を感じる体験なかったんだよ。読み終えて「俺は絶対バックパッカーになる」と思って、20歳になった時アメリカに一人旅したのね。この本は自分が海外に興味を抱くようになったきっかけのひとつでもあるし、自分一人でいろんな場所に行っていろんな体験をしてみたいなという憧れをもくれた本です。
本って、読んで面白いっていう本もあれば、自分の人生を変えてしまうぐらいの本もあるじゃない。それが俺にとっては『深夜特急』だった。俺よりだいぶ年下の翔吾が、そういう本を読んだらどう思うかなと思ったから、今回おすすめしたんだよね。

岩谷そうなんですね……この巻で語られる「香港・マカオ」に行ったことないのに、勝手に脳内で街が想像できるというか。街の匂いも湿度もそうですけど、すべてが。行ったことないけど旅行した気持ちになれる本で。主人公が26歳の時に旅に出ようと考えるんですけど、僕も今年26になる歳なので。今じゃん!と思って。僕はまだ一人旅をしたことがないので、今度国内でも、京都とか行ってみたいなと思って。

ケンチ一人旅は絶対したほうがいいよ!

岩谷やってみたいです。ケンチさんは昔から一人で行ってみようっていう行動力あったんですか?

ケンチそうだね、一人でずっといろんなところ行っていたから。

岩谷国内もですか?

ケンチ国内も行ったよ。ひとりで沖縄に一週間ぐらい行ったことがあって、すっごいいろんな出逢いあったし。友達と行くのはもちろん楽しいんだけど、友達と行くと、旅の間気を遣うし、会話もほぼ友達が相手になるよね。でも一人だと、気を遣う相手はいないし、人と話したいなと思ったら自分から話しかけるしかない。一人旅の方が、いろんな人と知り合った経験が多くて、いろんなことも覚えているんだよね。沖縄もそうだし、アメリカの最初の一人旅もそうだし。

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岩谷アメリカはどれぐらい行かれたんですか?

ケンチその時は1ヶ月ぐらい行ったかな。

岩谷えっ? 一人でですか?

ケンチ一人で。シアトルに友達が留学していたから、シアトルに最初に行って、その後にニューヨークかロサンゼルスかどっちかに行こうと思って。シアトルは大陸の西側だから、今回は同じ西側でいいかなと思ってLAに行った。その時に、2001年同時多発テロが起こったんだよ。まさにその時、俺はアメリカにいた。あれ、ニューヨークに行っていたら危なかったなと思ったね。

岩谷うわぁ―……!

ケンチ事件が発生して1週間ぐらい、アメリカ中の空港が閉鎖していて。俺は事件後2週間ぐらいで戻る予定だったから、なんとか帰れたんだけど、現地で知り合った日本人の方とかは、なかなか帰れない人もいて。朝空港へ行ってずっと飛行機待って、夜また宿に戻ってきて「今日もダメだった」みたいな会話をしていたよ。大変な事件だったんだけど、自分の人生の経験としては、すごい濃い時間だったなと。

岩谷その時はもうダンスはされていたんですか?

ケンチしてたしてた。でもダンスっていうよりは、普通に旅をしていた感じ。もちろん行った先でクラブに行って踊ったりもしたけど、それ以上に旅をしていろんな場所に行ってみたいっていう気持ちの方が強かったかな。

岩谷たとえばなんですけど、日中のアクティビティを充実させるのか、夜お酒を飲んだりとか。どっちでした?

ケンチ両方だね。自分の身体が動く限りはひたすら外に行って、いろんな物を見て、いろんな場所に行って、疲れたら宿に戻って寝て、また夜暗くなったらクラブに行って、みたいな。一人だと考える事が多いから疲れるんだけど、自分との戦いだよね。「ここで行けば何か面白いことがあるかも」みたいな(笑)。

岩谷細かいことは決めずにですか?

ケンチ決めずに。場所だけ決めて行って、その場所で『地球の歩き方』とかで調べて、自分でここに行こうって決めていた。それもいい経験だったと思う。

岩谷へえ~、すごいですね!

ケンチ絶対に一人旅はした方がいいと思う。でも翔吾も有名になっちゃったからな! 旅をするのも大変だな(笑)。

岩谷そんなことないですよ。一人で旅してもいいじゃないですか。みなさん一緒になったら優しくしてください(笑)。別に悪いことしないですから!

ケンチ本当に周りに誰もいない状態で行くとね、いろんなことが起こると思う。奇跡みたいな事がたくさんあったもん。それも本当に『深夜特急』のおかげだと思っている。沢木耕太郎さんは、JR東日本の『トランヴェール』っていう車内誌にエッセイを書かれていて、俺、新幹線乗るたびにそれを読んでたよ。沢木さんの文章ってやっぱり旅したくなるし、旅した気分になるんだよね。いつも読んで楽しませてもらいながら、すごいなぁと思っています。いつか沢木さんにお会いしてみたい。

岩谷お話聞いてみたいですよね。きっと、本に書けないようなこともいろいろあるでしょうから。

ケンチこの本も実際に沢木さんが体験したことを元に書いてると思うから、どんなことがあったのか聞いてみたいよね。

岩谷ディープな話もありそうですね(笑)。ということでこの『深夜特急』は、岩谷文庫第18回でレビューさせていただきます。ありがとうございます、おすすめしていただいて。岩谷文庫では毎回本の内容に寄せたテーマの写真を撮っていて、作品のキーワードになるような場所でロケをしたり、レビューと写真を合わせてみなさんに総合エンタテインメントとして提供する形でやっています。『深夜特急』はもう撮影を終えているんですが、香港・マカオということで、横浜中華街で撮影しました。

ケンチ大好きです、横浜中華街。

岩谷スタッフの集英社のみなさんと食べ歩きして。

ケンチ肉まん食べた?

岩谷食べました! 今すごいですよ。メロンパン肉まんっていうのがありました。パンダの肉まんとか。

dummy 岩谷文庫画像

ケンチ中華街もディープだからねえ。

岩谷ディープですね! 僕、ゆっくり中華街に行ったことがなくて、大通りしか行ったことがなかったので。華やかなイメージだったんですけど、ひとつ中へ入ると急にディープになる。

ケンチ横浜エリアはなかなか深いですよ。みなとみらいみたいな華やかなスポットもあれば、野毛みたいなディープなスポットもある。もちろん中華街もある。

岩谷ケンチさんが言うと説得力があります(笑)。横浜はよく行かれていたんですか?

ケンチ行ってたね。横浜横須賀は俺のふるさとみたいなもので。もともと生まれが横浜で、幼稚園まで横浜にいて、その後横須賀に移ったんだけど。その後も何かあると出てきて、横浜西口によくいました。

岩谷いいですね。横須賀もまた行きたいな。好きなんですよ。

ケンチ横須賀いいよね。

岩谷気付けば一時間を超えて。一瞬ですね。

ケンチあっという間だね! 延々喋ってられるわ。

岩谷本好きで集まると会話が絶えないというか。本当にいつも一瞬なんですけれど、お時間もぼちぼちということで。ありがとうございました、ケンチさん!

ケンチこちらこそ。めちゃくちゃ楽しかったです。

dummy 岩谷文庫画像
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岩谷次は『夜の岩谷文庫』で…! 日本酒をたしなみながら。

ケンチ『裏・岩谷文庫』。そっちも面白いと思うよ(笑)。また違う場所で、ごはん食べながらやってもいいかもしれないね。

岩谷ケンチさんの『EXILE NUDE』(Huluにて配信中の旅番組)にも行ってみたいです!

ケンチシーズン2が始まったらぜひ行きましょう。

岩谷よろしくお願いします。ということでケンチさん、今日はお忙しい中ありがとうございました! みなさんも、見ていただいてありがとうございました!

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《今回紹介した本はこちら》

『魍魎の匣』

京極夏彦【講談社】

箱を祀る奇妙な霊能者。箱詰めにされた少女達の四肢。そして巨大な箱型の建物――箱を巡る虚妄が美少女転落事件とバラバラ殺人を結ぶ。探偵・榎木津、文士・関口、刑事・木場らがみな事件に関わり京極堂の元へ。果たして憑物(つきもの)は落とせるのか!?日本推理作家協会賞に輝いた超絶ミステリ、妖怪シリーズ第2弾。

『魍魎の匣』

『Ank : a mirroring ape』

佐藤究【講談社】

2026年、京都で大暴動が起きる。京都暴動(キョート・ライオット)──人種国籍を超えて目の前の他人を襲う悪夢。原因はウイルス、化学物質、テロでもなく、一頭のチンパンジーだった。未知の災厄に立ち向かう霊長類研究者・鈴木望が見た真実とは……。

『Ank : a mirroring ape』

『発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ

小倉ヒラク【KADOKAWA】

大豆に麹菌がつくと美味しい味噌に、ブドウにイーストがつくとワインに、牛乳に乳酸菌がつくとヨーグルトに………。発酵とは、微生物が人間に役立つ働きをしてくれること。そして微生物のちからを使いこなすことで、人類は社会をつくってきた。「発酵デザイナー」が「文化人類学」の方法論を駆使して、ミクロの視点から社会のカタチを見つける旅へ出発!

『発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ』

『正体』

染井為人【光文社】

埼玉で二歳の子を含む一家三人を惨殺し、死刑判決を受けている少年死刑囚が脱獄した!東京オリンピック施設の工事現場、スキー場の旅館の住み込みバイト、新興宗教の説教会、人手不足に喘ぐグループホーム……。様々な場所で潜伏生活を送りながら捜査の手を逃れ、必死に逃亡を続ける彼の目的は? その逃避行の日々とは?

『正体』

『正欲』

朝井リョウ【新潮社】

あってはならない感情なんて、この世にない。それはつまり、いてはいけない人間なんて、この世にいないということだ――共感を呼ぶ傑作か? 目を背けたくなる問題作か? 絶望から始まる痛快。あなたの想像力の外側を行く、作家生活10周年記念、気迫の書下ろし長篇小説。

『正欲』

『深夜特急1 香港・マカオ』

沢木耕太郎【新潮社】

インドのデリーからイギリスのロンドンまで、乗合いバスで行ってみたい――。ある日そう思い立った26歳の〈私〉は、仕事をすべて投げ出して旅に出た。途中立ち寄った香港では、街の熱気に酔い痴れて、思わぬ長居をしてしまう。マカオでは、「大小(タイスウ)」というサイコロ博奕に魅せられ、あわや……。一年以上にわたるユーラシア放浪の旅が今、幕を開けた。いざ、遠路二万キロ彼方のロンドンへ!

『深夜特急1ー 香港・マカオ』

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