岩谷文庫 ~君と、読みたい本がある~
岩谷文庫

岩谷文庫 ~君と、読みたい本がある~

『岩谷文庫』は、ダンスと読書が大好き! THE RAMPAGEの岩谷翔吾さんが、フレッシュな視点でおすすめの本を紹介してくれる、ほぼ月イチブックレビュー連載です。今回の特別編では、タレント・作家の兼近大樹さんをお招きし、対談の模様をお届け。『むき出し』の創作秘話や、芸能活動をしながらの執筆業などについて、詳しくお話を聞きます。

兼近大樹

2017年、相方のりんたろー。とお笑いコンビ・EXITを結成。「ネオ渋谷系漫才」と称される、パリピ口調のチャラ男キャラでブレイク。お笑い第七世代の一角を担い活動する傍らで小説の執筆活動も行い、2021年10月、デビュー作『むき出し』(文藝春秋)を上梓。
TV・ラジオでレギュラー番組多数のほか、音楽活動やアパレルブランドのプロデュースなど、分野を問わず精力的に活躍している。

岩谷翔吾

2017年、総勢16名からなるダンス&ボーカルグループ・THE RAMPAGEのパフォーマーとしてデビュー。映画「チア男子!!」への出演など演技に挑戦するほか、日本将棋連盟三段や、実用マナー検定準1級の資格取得など趣味多数。
2021年2月より、webマガジンCobaltにてブックレビュー『岩谷文庫』連載をスタート。ダンスのみならず活動の幅を広げている。

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「いわしょー」「かねちー」で呼び合う、リラックスムードのスタート!

岩谷みなさん、こんにちは! THE RAMPAGEの岩谷翔吾です。今日は、特別編としてEXITの兼近大樹さんをお招きして、本についてのいろんなことをお話していきたいと思います!

兼近『岩谷文庫』の特別編ってどんな感じなんですか?

岩谷これまでは小説紹介クリエイターのけんごさん、『明け方の若者たち』の著者のカツセマサヒコさん、EXILEの橘ケンチさんなど、作家さんや本好きな方をお招きしてお話を伺ってきました。それで今回は、『むき出し』で作家デビューを果たされた兼近さんとお話しさせていただきたいな……と。お忙しいところお時間をいただいて、本当にありがとうございます。

兼近岩谷さん、THE RAMPAGEではなんて呼ばれてるんですか?

岩谷僕は「翔吾」か、岩谷翔吾なんで「いわしょー」ですね。

兼近「いわしょー」か、いいね!

岩谷じゃあ僕は「かねちー」さんで。よろしくお願いします! 早速、本についてお話を始めていきたいと思います。まず、かねちーさんが書かれた『むき出し』。僕もこの本、読ませていただきました!

兼近ありがとうございます! インスタにも書いてくれてたよね。嬉しかった! あんな風に取り上げてくれる人、そんなにいないから。

岩谷その投稿にコメントいただきましたけど、ご本人からくると思ってなくて(笑)。『むき出し』を読み切って、ただ読んだだけで終われなくて。久々に衝撃を受けたといいますか。太宰治の『人間失格』とか、西村賢太さんの『苦役列車』とか、そういうのに近い印象を受けたんです。

兼近確かにあの本は、人間のだらしなさを全部書いてる作品を、ちょっとイメージしたんですよ。

岩谷それがすごく伝わって! 久々に食らったというか。プロの作家の方の作り込まれた作品だと、どんでん返しがあったり…。

兼近いろんな仕掛けがあって、伏線があって。

岩谷そうなんです。それも読み応えがあって好きなんですけど。かねちーさんの本はそれこそ『むき出し』っていうタイトルの通り、「人」がそのままドンッとストレートに突き刺さった感じがして。これは読んでそのままでは終われないな…と思って、勝手にインスタに載せさせてもらったんです。

兼近いわしょーさん、こんなに読み込んでくれてるんだって思って、嬉しかったです。

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兼近さんが小説デビュー作『むき出し』に込めた想い

兼近『むき出し』は初めて書いた作品なので、小賢しい書き方をするのは恥ずかしいなと思って。やろうと思えば、それっぽいことはできるじゃないですか。構成とか表現とかの小手先で。実は初めはそういうことも考えたんですけど、一回書き上げて、編集さんと話をして「そういう小賢しいやり方で、小説っぽく書くのはやめよう」という結論になったんです。それよりも「自己啓発自伝エッセイ」的なイメージの作品を作ろうと。

岩谷最初は違ったんですか。

兼近はい。最初はお洒落にして、比喩表現を多くして、主人公も何人か作って、オムニバスにして、最後に全員が出逢う、みたいな一見凝った風に見えるものを作ろうとしていて(笑)。でも、それっぽくはなるんだけど、自分で読んでて恥ずかしい(苦笑)。で、一から書き直しました。主人公の思い、最初は何も知らなかった、知識もなかった人間が、だんだん考える力を得ていくというか、成長していく方向にしよう、ということになって。冒頭は大人になった主人公が登場しますけれど、めっちゃ小賢しいじゃないですか。いろんなことを綺麗な字面で喩えたりとか。客観的に見ればだっさい表現をしている、そいつが元々どういう人だったのかを掘り下げていく本にした。だから、主人公の子どものときは子どもの言葉を意識するとか、語る言葉をめっちゃ変えてるんですよ。

岩谷そうですよね。子ども時代はひらがなが多用されてたり。

兼近だんだん成長するにつれて心の描写を増やしたりね。そういう風に変化をつけました。

岩谷最初はまったく違う形だったんですね。

兼近最初のを読んだら、いわしょーもガッカリしてたかもしれない。

岩谷いやー、でもそっちのバージョンも読んでみたいですね!

兼近小賢しいって感じたかもしれないですね。初めて書く素人だったから、よりお洒落にしたくなっちゃうという。「できるんだ」って思われたいし、かっこよくしたい。

岩谷めちゃくちゃ分かります(笑)。

兼近最終的には、「できない人」として思い切り全力で書いたっていう本になったので、結果オーライ。ベタだなっていうところもありつつ、等身大で書けました。

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岩谷執筆にはどれくらいの期間をかけられたんですか?

兼近実は僕、本を書くために芸人になったんです。初めて書こうと思ったのは21歳の時。で、28~29歳で書き始めた。つまり思い立ってから書き始めるまでに8年ぐらい経ってるんです。書き始めるまでの期間にも、合間合間でエッセイみたいなものを書いてたんですよ。その時思ったことを。なにせ小さい頃の自分についての印象だって、21歳の時と、28~29歳の時では全然変わってるじゃないですか。そこを忘れないように21歳から書き続けて、ためてためて。

岩谷21歳の時から自分の「人」を書こうっていうのは決めていたんですか?

兼近はい。自分っぽい主人公で小説を書こうというのは決めていましたね。

岩谷読み始めてすぐ、幼少期の頃に主人公が出入りするスナックのシーンで、僕もスナックが好きなので流れてる歌の選曲とか「わかる!」っていう親近感を抱きました。あと、要所要所で空の描写をされてますよね。それがすごく綺麗で刺さりました。子どもの頃に見た空と、非行に走る時の空と、大人になってから見る空で見え方が変わったり、飛行機の描写だったりとかもすごく印象的で。そういうのは書いていく中で意識されてたんですか?

兼近意識しました。空っていつでも、誰でも平等に見られるものなので。例えば映画って、親や親戚、周りの人が親しむ環境にないと、触れる機会がないと思うんですよ。でも空だけは、誰でも常に見られるもの。外に出れば見られて、毎日変わっていく。僕自身、小さい頃から空は好きでしたが、大人になって本当に大好きになりました。それで、空で視野の広がりを表現できたら、ちょっとお洒落じゃん? と思って。

岩谷お洒落な感じもありますし、とにかくすごく印象に残っていて。

兼近空を見て、ただ「きれいだな」と言ってた幼少期から、空を見て、浮いてる物や飛んでる物、いろんな物を見られるようになっていく。空で主人公の成長を感じられるようにと意識して書きました。そんなところまで気づいてもらえたなんて、嬉しいですね。

岩谷今日のためにガッツリ読んできました。2~3回読み直しています。

兼近ええーっ!? マジで?

岩谷それで、いろいろと聞きたいことがあって。この作品を書かれた時は、習作の短編を書いたりとかはなく、いきなり長編に挑戦したんですか?

兼近そうですね。部分部分を書いていて、短編みたいなものをつなぎ合わせる作業はありましたけれど、仕上げたのは最初から長編でしたね。書き上げた時は、本になった『むき出し』の2倍ぐらいの厚さがありました。で、ひたすら削る作業です。
今、本を読む習慣がない人がすごく多いじゃないですか。そんな層に届けたいと意識していたので、上下巻にはしたくなかった。本を読まない層が初めて触れる文学として、できるだけ簡単にしたかったんですよ。だから、自己啓発的な要素を入れこみながら、刺さる言葉も意識して。ラップで言う「パンチライン」みたいな、読んだ人に「うわいいな」「これ使いたいな」って思われそうな、若い人の心にグッとくるような物を意識しました。

岩谷エッセイの要素もありますし、今おっしゃったパンチラインのような引きのある言葉。それから、シーンが転換するときの最後の文章をお洒落にまとめて余韻を感じさせてくれたり、読んでいて「すごくいいな」と感じるところが多かったです。

兼近……この対談、すごく気持ちいいですね!(笑)

岩谷(笑)。『むき出し』、めちゃくちゃ好きになりました。勇気をもらったんですよ。というのも、自分もパフォーマーをやりながら本が好きで、昔から文学の世界に憧れながら活動してきたんです。でも、自分としては結構コンプレックスが多くて。なぜかというと、ダンサーっていうだけでイケイケな雰囲気があるし、文学とは真逆なイメージを持たれがちなので。でも、自分自身は文学が好きで、本が好き。だから、自分自身をなかなか出せないジレンマがあったんです。

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岩谷かねちーさんのこの本を読んで、自分という人生はひとつしかないですし、誰かと出会って話すのって、相手の人生を知りたいからすることなんだなと感じました。そして、僕はこの本を読んで「かねちーさんの人生」を体感できた。『人間失格』を読んだ時に通じるような、それぐらい食らった部分が大きくて。今、うまく言葉で言えなくて申し訳ないですけれども、その衝撃があまりに大きくて、今回ぜひかねちーさんと対談させていただきたいなと思ったんです。

兼近そういうことだったんですね。いわしょーの今の言葉を聞いて、僕はいわしょーの書いた物が読みたくなりましたね。こういう『むき出し』みたいな本、書けるんじゃないですか?

岩谷実は僕も、密かに小説を書いてみたことがあるんです。自分の経験を下敷きに、ダンスが題材の物語と、完全に創作のストーリーの2作。別に出版するとかでなく、書いてみたいと思って試しに書きあげて、おこがましくも三浦しをんさんに2作とも読んでいただいたんですよ。

兼近えー、すごい!

岩谷ダンスの話はすごいお褒めの言葉をいただきました。なぜなら、自分にしか書けないものだから。自分の人生をソースに、フィクションとして書いたものなんですけれど、やっぱり迷いながら書いていた部分もあって。そんな時に、かねちーさんの本を読んで背中を押してもらえたんです。自分の人生を書きながら「こんなんでいいのかな」って思っていた自分が『むき出し』を読んで「これでいいんじゃん!」って納得できた。「そうだよ、これが自分じゃん!」って思って、すごく感動したんです。

兼近確かに人間って、一人ひとりがマイノリティ。みんな自分の物語が書けますよね。人と比べたら派手じゃないなーとか感じちゃったりするけど、実はそれぞれ物語がちゃんとある。

岩谷僕は『むき出し』のいちファンとして、今から読まれる方には、かねちーさんが書いたから、と思わずに読んでほしいなと思っています。

兼近そうですね、それは確かに。

岩谷本当に、普通に文学として読んでもらいたいです。

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兼近実はこの本、著者の僕のことは関係なく文学的に読んでもらうパターンの読み方と、僕を知って僕を応援してくれる一環としてのパターンの読み方と、両方で読めるように作ってあるんですよ。21歳で芸人になって、テレビをはじめいろんな媒体に出させてもらうようになったんですけれど、そこで喋った言葉やウケたセンテンス、パンチラインをメモっていて。チャラい芸人になった主人公が出てくるシーンあるじゃないですか。あそこに、僕が芸人としてやってきた8年間、9年間を全部入れてる。ファンの人はそこを読めば分かるはずです。「あれ、前にこんなこと言ってたぞ」って。
チャラ男の描写は、僕を応援してくれる人に向けて入れたものですし、その他は、僕に関係なく読んでもらえるように書きました。

岩谷そうですよね。なかなか覚悟がいる作品だなと思いました。

兼近そこは意識しましたね。知らない人向けにも。

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タイトル決め、装画選び……『本』という作品づくりへのこだわり

岩谷また『むき出し』っていうタイトルが……! 本当に「むき出し」の作品だなと思いまして。タイトルは、ほかにも候補があったんですか?

兼近タイトル案はいっぱい出しましたよ! 今流行りのやつあるじゃないですか、「●●と××が△△してみた」みたいな長いやつとか、僕は芸人なんで、タイトルでもちょっとふざけて、転生系のタイトルにしちゃおうか、とか。「……転生せずに生きた件について」みたいな。いろいろふざけた案を出したんですけど、編集さんからは「ストレートなタイトルがいい」と言われまして。ふざけないで、一言ズドンと来るタイトルが見たいなと意見をもらった。一緒に作品を作ってくれた人からの意見だったので、それ汲んでつけたのが今のタイトルです。

岩谷でも「むき出し」っていうのは結構すごいですよね、インパクトが。カバーのイラストもすごく印象的で。

兼近これ、僕がInstagramで探してお願いした、菊地虹さんという方の絵なんです。学校を卒業したばかりのアーティストの方で、本の装画も未経験。

岩谷じゃあ、この本がその方の一番最初の装画作品になったんですね。

兼近そうです。小説を実際に読んでもらって、そこからインスパイアされたものを描いてもらいました。

岩谷最初からイメージはあったんですか?

兼近空とか太陽とか、いろんなものが入り交じってる。サンパチマイクだったり、主人公がいろんなものを経てそこにいるっていうのを表現してほしくて。だからいろんなイメージが描かれているんです。星みたいなものがなんとなく見えていたり。表紙に配置されている丸いモチーフを、僕は太陽だと勝手にイメージしているんですけど、実はこれ、完成した絵をずらして使っているんですよね。「無理矢理でも、自分を主人公にしたい」という気持ちを込めて、タイトルの横、著者名の位置に太陽を持ってきた。

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岩谷本当ですね! へえーっ、なるほど! すごい! 今、鳥肌が立ちました。

兼近菊地さんに「それでもいいですか?」って聞いて。だから裏表紙を見ると絵が切れているのが分かると思います。そんな風に、装丁の絵にも実はこだわってるんですよ。これまであんまり言ってこなかったですけど(笑)。

岩谷心の混沌とした感じが表現されてるなと思っていました。そして、唯一無二なパッケージですよね。見たことがない。最近は読者が手に取りやすいこともあってイラスト表紙が流行ってる感じがしますけど、この装丁からもかねちーさんの覚悟が伝わりましたし、文学的な一冊なんだなと思いました。

兼近ポピュラーなイメージというか。「兼近大樹」という存在も、人によって見方の角度が違うと思うんですよね。この表紙を見て、単純に「チャラい」ともとらえられるじゃないですか。どの層から見てもいい。表面をすくっただけでもいいし、奥まで届いて深く見てもらってもいい。どの層から見てもイメージしやすいかなと。

岩谷表紙の色合いは最初からこんな感じだったんですか?

兼近この他に、ブルーが多めのものもありましたよ、空が好きなので。でもやっぱりオレンジの方が太陽をイメージできたので、そちらを採用して、ちょっと青を入れてもらいました。

岩谷装画のポップさに対して、ページをめくり始めた時に重く沈んでいくようなギャップをすごく感じました。序盤は漫才の話でチャラい感じから始まるので、表紙と同じポップな世界観なんだろうなと思ったんですけど、30~40ページぐらいまで読み進めると、いきなりズドーンと沈むじゃないですか。オレンジのポップなところから急に紫みたいなダークトーンになる。この装画は、作品の混沌としてる感じのすべてが表現されているんだな、と今思いました。

兼近いわしょーさんのその言葉、菊地さんが喜びますね(笑)。

岩谷太陽の話とかも、聞いてから改めて見ると「なるほど!」と思って痺れます。なんだかいちファンとして熱く語ってしまってすみません。こうやって、今日お話できて嬉しいです。

兼近こちらこそ。自分の本について、こんなに話してもらえることってあんまりないですし、ここまでガッツリ読み込んでもらえているとは思ってもいなかったので……書いた僕ですら、絶対忘れてるところありますしね。

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「むき出せない」人たち──執筆の喜びと苦しみ

岩谷いろいろと気になったところがあるんです。幼少期のシーンは結構暗い雰囲気ですけれど、どういうシチュエーションで執筆したんですか?

兼近僕は普段すごく明るくて、チャラ男で売ってるので、あの暗いシーンはずっと書けなくて。マネージャーさんに無理を言って休ませてもらいました。仕事が早朝から深夜まで続いていた時期だったので、深夜に終わってから流れを思い出すために原稿を読み直して書き始めるんですけど、思い出すのに2時間ぐらいかけてると、もう朝の仕事の時間になっちゃう。
「あ、ヤバい!」と思って仕事に行って、またふざけたチャラ男になって面白いことをやって、全部忘れて深夜に帰ってきてまた原稿読まなきゃ……っていうのが1ヶ月ぐらい続いて、ついに具合が悪くなってしまいました。「ダメだ、こんなんじゃ一生書けない!」と思って、それで1週間ぐらい休みをもらって、ホテルに閉じこもって書きました。人を蹴落としたり、バカにしたりするような感情って、幼少期を過ぎるとだんだんなくなっていく。そういう自分の中ではもう消えてしまった部分をキャラクターにのせてあげないと、形にならなかったので。

岩谷自分も経験があるのでわかるんですが、書いている間、自分が感じた思いや成長した部分に作品が影響されることはありましたか?

兼近ありました。僕は21歳ぐらいから本を書きたいと思っていたんですが、実際に本を書き上げるまでの8年間でめちゃくちゃ変わったんですよ。最初に思ってたこと、書きたいこと、いろんなことが変わってしまったし、いろんな社会問題も知っていく。すると、自分が伝えたいのはどの層なんだろうとかいろいろ考えるようになって。そんな自分のすごい変化を感じたので、物語も「人って変わっていく」という感じにしたんです。

岩谷それはそうですよね、受け取り方も変わりますし、自分からのメッセージも必然的に変わってしまう。

兼近変わってく部分を書かなきゃいけない。でも、変わらない部分も書かなきゃいけないっていう矛盾がすごかったですね。

岩谷一番書くのが苦しかった部分はどこですか?

兼近主人公が本当に小さい時ですね。5~6歳の子どもって自分の中にもういないので、よく公園に行って、お母さんと遊んでる子、お父さんに連れられてる子、いろんな子どもを観察しました。帰って行く子ども、親と一緒に来たけど疲れてる子ども、それを見ている親の様子を見て今の自分と重ねてみたり、小さい時の自分ってこういう時、どうやって親から構ってもらおうとしてたかなとか、そういうのを思い出したり。ひたすらに子どもを観察していたので、結構きつかったですね。

岩谷いざ何かを書こうと思って物事を見る時って、感じ方が変わりますよね。より繊細になるというか、それこそ公園に子どもが来るなんて日常的に通り過ぎてしまうことなのに、それを注意深く見ようと思う。

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兼近東京のど真ん中の公園に家族と来る子どもって、いろんなことが与えられて、恵まれた環境にある子だと思うんですよね。それが幸せかそうじゃないかって言われるとわからないですけれど、少なくとも社会的にいろんなものが与えられている。勉強をできる環境があって、努力するっていう方法も教えられている子どもたちなんですよね。自分はそういう環境にいなかったから、より違いがわかるんですよ。そして、そういう恵まれた子に対して、そうでない子どもがどう思うかを考えると、だんだんグロテスクになっていく。

岩谷……それはヤバいですね。

兼近悔しい、羨ましいっていう、人の足を引っ張りたくなる感情を引き起こしたかったんで、「ずるいぞ」「おまえらはいいな、この後きっといっぱい勉強できて」とか、イヤな目で見てましたね。

岩谷公園に来る子どもが恵まれてるっていう視点が、僕にはなかったです。僕も幼少期、当たり前のように公園に行っていたので、そういう視点もあるんだとハッとさせられました。

兼近でも普通はそれが当たり前ですよね。それを「当たり前じゃない子ども」として見てたので、すごくキツかったです。子どもが公園で遊んでるところって、「幸せだな」と思って見ることが多いのに、そうじゃない見方をしないといけない。それが書いてて辛かった部分かもしれないですね。

岩谷物語の中で主人公が非行に走る部分は、スムーズに書けたんですか?

兼近非行や不良を描いてるマンガや小説ってすごく多いじゃないですか。だからそういう作品の作者に取材して、自分の経験とも照らし合わせて(笑)。だからそこを書くのはめちゃめちゃ簡単でした。でも、不良マンガや不良小説を書いてる人って、実際には不良じゃないんですよね。それで作者も取材して、思ったことを多分キャラクターにのせてるので、意外とリアリティがなかったりするんですよ。
作品の中ではかっこよく描かれていても、実際には不良ってかっこよくない。少なくとも僕は、かっこいい不良なんてこの世にいないと思ってます。書いている時も、かわいそうに書くのはいいけど、かっこよく書きたくはないなと思っていたんです。だって、それを読んで子どもが憧れたらイヤじゃないですか。環境がそうさせてる部分もあるにせよ、どんどんかわいそうになっていくし、むしろダサいと感じさせる風に、嫌われる描写を入れて書きましたね。

岩谷深掘りしていくといろいろと面白いですね。この『むき出し』という本はかねちーさんの人生ですけれど、いろんな人の人生の「むき出し」を見たいですね。公園で遊んでいる子どもの、ちょっと大人になった時の自分を「むき出し」にしたものとか、いま非行に走ってる人たちの「むき出し」とか。小説の形に限らなくても、このひとつの作品からいろいろ広がっていく気がするなと思いました。

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兼近言語化できない層っていて、そういう人たちって「むき出せない」んですよね。ちゃんと学校に行って、それなりの幸せや不幸を味わいながら成長できた人なら言語化できるんですよ。僕も、言語化できるようになってこの作品が書けた。でも、僕が若い頃周りにいた人たちって、一生本に触れないまま、自分の思いも表現できないまま死んでいくんですよ。そこを何とかごちゃごちゃにかき混ぜたいなという気持ちも込めて書いたんですけど、この本を読む人って、やっぱりそういう人たちじゃない。書き終えて「自分の考えは甘かったな」とも思いました。

岩谷でも、かねちーさんがこの本を出したことで、本好きな層とは違う層にも行き渡ったんじゃないですか? そういう方がどう思ったかも聞いてみたいですね。
ところで、「むき出し」にするって覚悟がいるじゃないですか。僕もイヤなことは蓋をしたくなるし、忘れたくなる。「自分をむき出しにする」ということについて、葛藤はあったんでしょうか。

兼近でも、それが「面白い」に変わってくと思うんです。人って嘘つきじゃないですか。みんな自分のいい部分を見せたいと常に思っているからこそ、あえてみんなが隠すダサい部分を見せるのが逆にカッコよくなったりする。

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岩谷面白いの観点って人によって違うと思いますが、かねちーさんの思う「面白い」ってどういう基準なんですか?

兼近線引きしてます。お笑いって、多分大衆に向けた「面白い」で、みんなが共感できる「面白い」だと思うんですけど、僕が個人的に楽しむ「面白い」は、人間味というか。それぞれが隠してるものが見えた時に「面白い」と感じる。それはお笑いにも繋がってるんですよ。芸人のナダルさん、ダサい意地悪キャラでパッと見ただけで笑えるし、みんな面白いって思うじゃないですか。それって、ナダルさんが自分を悪く見せてるから笑えるんですよね。さらに僕はナダルさんと仲がいいので、彼の柔らかい部分、優しい部分もすごく知っている。でも世間はそれを知らない。そんな風に、視点により面白さって変わると思うんですよ。

岩谷この本なら、自分を「むき出し」にしたからこそ、心の奥底に眠ってる面白さがストレートに伝わってくるってことですね。最初に書いた原稿のように、比喩表現に固められたお洒落文学風になっていたら伝わらなかった。

兼近そうですね。物語の後半、主人公が留置所の中で本を読むシーンがあるじゃないですか。あのシーン、主人公がめちゃくちゃかっこつけるんですよ。だから文章もかっこつけて書いてあるんですけど。

岩谷確かに。最初は本のタイトルさえまともに読めなかったのに、いつの間にか漢字もちゃんと読めるようになって。

兼近書いていて、キャラクターに急にかっこいい文章を言わせるのがすごく面白くて。でもそれって書き手だから面白がれるところで、多分読者には伝わらない(笑)。でもすごく面白かったですね。

岩谷主人公が又吉さんの本を読んで、自分だけじゃない、ひとりじゃない、こういう世界もあるんだって気づくシーンがありますよね。
 書いている意味を理解出来た時、誰かと繋がっている気がした。この文を読んでいる人が世界のどこかにいて、それぞれ何か考えている。それぞれの受け取り方をしている。生きてきた世界は全く違うのに、対面したら仲良く話せないのに、文字を読んでいる間だけは同じ階を踏みしめてる気がして、一人じゃないんだと孤独感を消してくれた。
ここ、本を読む人にとっては「まさしくこれ!」っていうのが端的に表現されている。自分のことを言われているような気がして、ゾクッとしました。

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兼近実はそのシーンの後ろ、いろんな作家さんのクセを模写して書いてるんですよね。

岩谷ええっ?

兼近絶対気づかれないレベルなんですけど、これも書いてる自分はめっちゃ面白かったです。

岩谷序盤の幼少期は心理描写があまりなくて、後半一気に雄弁になるのは、かねちーさんがどんどん書き慣れていったからそうなったのかなって思ってたんですけれど、意図的にやっていたんですね。

兼近なんならこの物語、最初と後ろから書いてます。で、最初の方をより下手に、中間はちょっとかっこつける。

岩谷えっ? いったいどこから書き出したんですか?

兼近最初はプロローグから書いて、次に後ろの方を書き出して。実は後半は、芸人になってからの描写がめちゃくちゃ長くなってしまって、完成した本と同じぐらいのボリュームになっちゃったんですよ。そこを全部削って一冊にしたんですよね。

岩谷なくしちゃったんですか? もったいない! それ、『むき出し2』にして出版してくださいよ。

兼近プロローグを書いたあとは、主人公が芸人になってから、普通に育って大学を卒業した人たちと喋って成長して人間になっていく物語を長々書いてしまって。そういうのを全部なくしました。

岩谷最初はそっちから書いてたんですよね? 勇気いりませんでした? 一番最初に書いたところをバッサリ削るって。

兼近でも、その後半は、前半がないと面白くない。そして自分が書きたい、伝えたいのは前半だったので。

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岩谷そうだったんですね。さっきも言いましたけど、てっきり時系列に沿って書いて、書くのに慣れていったのかと思ってました。

兼近そう見えたらいいなと思って書きました。

岩谷まさしくひっかかりましたね!

兼近前半は「めちゃくちゃ下手だなこいつ」、って思わせたかったんですよね。

岩谷でもプロローグでガッツリかまされたので。わざとこう書いてるんだろうなとは思いました(笑)。

兼近プロローグはナルシストに書きたかったんですよ。こいつ酔ってんなって。

岩谷描写が繊細でキザで、すごく文学的だったので、これは本格的な文学なんだと思ってたら、幼少期に入ってギャップにやられました。

兼近イメージでいうと、プロローグは成功していい気分でナルシストになって、心理描写とかも遠回しにかっこつけて、読んでて「だる!」っていう風にしたかったんです。

岩谷ちょっと浸ってる感じはありますよね。

兼近かっこつけてるとこから子どもになるところの差はつけましたね。気づかない人もいっぱいいますけどね。

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選び手の気持ちに触れる、おすすめ本6選

岩谷ここまで『むき出し』について、いろいろと聞かせていただきましたが、この先はかねちーさんの読書歴についても伺いたいです。どんな本に触れてきたことが『むき出し』につながったのか。今日はおすすめの本を3冊準備してくださったということですが、3冊ともまったくニュアンスの違うお話ですね。

兼近一冊目は、伊坂幸太郎さんの『小説の惑星 オーシャンラズベリー篇』。伊坂幸太郎さん、みんな好きじゃないですか。この本は、伊坂さんがおすすめする短編小説を集めた本です。

岩谷伊坂さんってどういう作品を読むんだろう。

兼近気になりますよね? それこそ兼近がどうやって『むき出し』に辿り着いたのか、みたいな感覚ですよね。伊坂さんってどういうものを読んで「作家・伊坂幸太郎」になったんだろう、みたいな。これがね、たまらんのですよ。

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岩谷この本で、伊坂さんの歴史に触れられますか?

兼近本を紹介する時って、自分のセンスを見せたかったりしてセレクト考えるじゃないですか。例えば僕だったら、今回の対談のためにタイプの違うのをあえて選んだし。この本を読むことで、伊坂さんがどうしてこの作品をセレクトしたのか、そういう気持ちみたいなものに触れる気がするんですよね。

岩谷なるほど。僕からの一冊目は『むき出し』を読んで近しいものを感じた、鈴木おさむさんの『僕の種がない』という小説です。主人公が著者と同じ放送作家という設定で、おさむさん自身が見てきた世界を描いている。

兼近いちばん書きやすいやつですね。

岩谷はい。おさむさん自身も相当覚悟がいる作品だったんじゃないかと思いました。実際におさむさんも男性不妊で、その実体験を元に書かれたんだとお聞きしました。だから『むき出し』とすごく近しいというか、これも一種の『むき出し』だなと思っておすすめさせてもらいました。

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兼近面白いですね。読んでみようかな。

岩谷すごく読みやすくて。台本を読んでるようにスルスル読めるんですよ。描写というよりも台詞で読ませる、本を読むのが苦手な方でもスッと入れる世界観なのかなと思いました。

兼近じゃあ、これも読んでみて。吉田敬さんの『黒いマヨネーズ』。現代だと物議をかもす描写もあるんだけど、これはひとりの人間が人生を懸けて、人を楽しませるために書いた本。読んでみて、僕もこういう本を書きたいと思った。吉田さん自身が体験したことのエピソードエッセイみたいなもので、脚色して面白くして、文字でこんなに人を笑わせられるんだっていうぐらいのお笑い本です。

岩谷小説を読んで「くすっ」とするぐらいはありますけれど、そこまで笑うことってなかなかないですよね。

兼近この本は「うわっおもろっ!」ってなる。僕は嫉妬といらだちを覚えました(笑)。僕、又吉さんを目指して芸人になったんですよ。だから又吉さんは芸人になる前に憧れた人で、吉田さんは、芸人になってから憧れた人なんですよね。芸人として活動していく上で漫才とか、平場、いわゆるテレビで一言いうみたいなシーンで尊敬したのはこの方。本当に、めちゃめちゃおもろいです。

岩谷それは読みたい! 次は僕から。夏目漱石の『こころ』です。いわずと知れた名作ですよね。この作品、又吉直樹さんのルーツでもあるってお聞きしてます。僕は又吉さんほど語れないんですけど(笑)。

兼近そんなんオレも無理! だって又吉さん、太宰が住んでた家の跡地に建てられたアパートに住んでたんだから。思い入れ、エグいよ。

岩谷僕も夏目漱石がすごく好きで、好きになったきっかけが『こころ』だったんです。もう何回となく読み返していて、いい書き方だなと思うところを、パソコンにテキストで打ち込んで、こういう書き回しするんだって練習してます。

兼近夏目漱石の本にならって文章を書くと、賞取りやすいって(笑)。

岩谷ええーっ? そうなんですか!?

兼近みんな言ってる。賞を選考する人たち世代って、それこそ夏目漱石を読んで育っているから、漱石にならった書き方をしたら上手だと評価される。夏目漱石の書き方をまねしたらわりとイケるって、賞獲った人たちは軒並み言いますよ。

岩谷そういえば、僕からの次の一冊、宇佐見りんさんの『推し、燃ゆ』もすごく面白くて「岩谷文庫」でもレビューさせてもらったんですけど、宇佐見さんも神棚に夏目漱石の本を飾るぐらい崇拝されてるらしくて。冒頭の「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。」という文章、夏目漱石の『我が輩は猫である』の冒頭みたいですよね。リズム感なんかも通じる部分があるなって……。
『推し、燃ゆ』に関しては、推される側であるかねちーさんにもこの本を読んでいただいて、どう感じたか聞いてみたいなと思って今回おすすめさせてもらいました。すごく面白いですし、120ページで短めなので、さらっと読めます。

兼近僕から次の一冊は『こちらあみ子』ね。普通これを読む時って、あみ子のキャラクターを、周りにいた人の視点で読むと思うんですよ。でも僕は、あみ子がちょっと自分と重なるところがある。『むき出し』の主人公の幼少期とも近い部分がある。だから、あみ子の中に入って、あみ子の気持ちになって読めたんですよね。映画の『万引き家族』なんかも「わかる!」って共感で見ちゃう。そういう視点がきっとみんなと全然違っていると思います。

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岩谷僕はそれこそ「あみ子が近くにいたらどうしよう」とか、「自分だったら何ができるかな」とか考えながら読みました。

兼近そっちですよね。僕は違ったんですよ。自分があみ子になっちゃう。それが1回目に読んだ時はすごい楽しくて、2回目はいわしょーと同じ側で。どっちも行き来しながら読みました。

岩谷あみ子のお兄ちゃん、途中で不良になりますけど、お兄ちゃん側の視点でも読めるんですか?

兼近それもできるし、あみ子に好きになられた男の子側にもなれる。いろんな方向で楽しめて、大好きですね。

岩谷読んだあとどうでした? 僕は結構後味悪くなったんですよ。

兼近でも確実にあみ子みたいな子ってこの世界に溢れてて、そういう人に寄り添える本でもあるんですよね。「こういうこと、確かにある」という感じに読めるんで、僕はわりとスッキリしましたね。

岩谷スッキリなんですね!

兼近結局そうなんだよ。僕たちはこういう人たちが溢れてる世界に生きてる。見えないとしたら、それは見えてないだけ。見ないようにしてるだけ。

岩谷そういう世界のために、本があるっていうのもありますよね。

兼近はい。こういう世界は、当たり前にある。マイノリティなんかじゃなくてマジョリティですよ。サイレントマジョリティだと思う。

岩谷『こちらあみ子』には、他にも短編の「ピクニック」などが入ってますよね。

兼近これ、自分が読書始めたての頃に読んだものだから、「あみ子」と繋げて読んじゃって、わけわかんなくなった。

岩谷わかります! 本のタイトルが『こちらあみ子』なのでそのまま、第二章なのかなと思って次の「ピクニック」を読んだりして。

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兼近そうそう! 僕、そういうのめっちゃ経験した。本の読み方がよくわからなくて。「全然違う話始まったけど、これあとで繋がるのかな?」みたいに思いながら。

岩谷そういう本もありますしね。

兼近そういうの分かりづらいよね?(笑)読書に慣れてない人に親切じゃない。あれ、なんか僕、急に本の否定始めちゃったな。

岩谷(笑)。読書体験を重ねると、何となくわかってくるんですけどね。

兼近本って、本に触れてきた人じゃないと読めないようにできてることが多いですね。

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「作家・兼近大樹」になった日と、そのこれから

岩谷今はどれぐらいのペースで本を読まれるんですか?

兼近最近は漫画しか読んでないですね。『むき出し』を書き終わってから、小説が読めなくなっちゃって。

岩谷「読めなくなった」っていうのは?

兼近物語に入っていけなくなっちゃって。集中力が途切れたり、「作者はここをどういう気持ちで書いたんだろう」とか、変な気持ちになっちゃう。

岩谷純粋な気持ちで読めなくなったってことですね。

兼近そう。だから今はひたすら、ありとあらゆるマンガを読みまくってます。

岩谷でも確かに一度本を出版されると、今まで純粋に読者の気持ちで読めていたのが、できなくなるのかもしれないですね。

兼近そんな素晴らしい本ではないかもしれないけど、自分なりの夢が形になったことに多分納得しちゃった部分があるかもしれないです。

岩谷自分の書いた作品は読み返したりするんですか?

兼近いや、読み返さないです。

岩谷出版された本は読みました?

兼近一回だけ。

岩谷一回だけ? どうでしたか?

兼近自分で書いた本だから、書いていた時のことや、ネタを思い付いた時のことなんかを思い出しました。あとは、「あっ、こことここの描写かぶってんじゃん」「やばっ、ここはいらなかったな」とか。

岩谷出版されてから気づくんですね(笑)。本が発売された日の気持ちはどうでしたか?

兼近めっちゃ忙しかったから、あんまり思い入れ深くはならなかったかな。嬉しいっていう気持ちだけでしたね。あ、完成した本を、好きな作家とか又吉さんの本の横に並べて眺めました。めっっちゃおこがましい。

岩谷(笑)。本を出したなという実感はいつ湧いたんですか?

兼近実感っていうと、まだ湧いてないかもしれない。自分でもまだよくわかっていないというか、本を出してから今まで、休みがほぼなかったので。でも仕事の合間に、本屋さんに自分の本が並んでるところはめっちゃ見に行きました! 写真も撮った!

岩谷変な感じなんでしょうね、きっと(笑)。今日は、時間いっぱいお話しいただいて、ありがとうございました。

兼近今後ともよろしくお願いします。『むき出し』こんなにじっくり読んでくれて嬉しかったです。おすすめ本も紹介していただいてありがとうございました!

岩谷こちらこそ、これからもどうぞよろしくお願いします!

dummy 岩谷文庫画像

《今回紹介した本はこちら》

『小説の惑星 オーシャンラズベリー篇

伊坂幸太郎 【筑摩書房】

「小説の凄さ」を知りたいけれど、一体何から読めばいいのかわからない。物語は好きだけれども、小説以外に漫画や映画、アニメ、舞台、数多のエンタメ作品はある―。そんな人にこそ届けたい、作家・伊坂幸太郎が至高の短編だけを集めた二冊のアンソロジー。小説のドリームチーム、誕生。赤色が目印のオーシャンラズベリー篇! 編者による書き下ろしまえがき&各作品へのあとがき付き。

『小説の惑星 オーシャンラズベリー篇』

『僕の種がない』

鈴木おさむ 【幻冬舎】

ドキュメンタリーディレクターの真宮勝吾は、癌で余命半年の芸人に意を決して提案する。「ここからなんとか子供を作りませんか?」だが、その芸人は無精子症だった……。それでも諦めずに、奇跡を起こそうとする物語。

『僕の種がない』

『黒いマヨネーズ』

吉田敬 【幻冬舎】

後輩芸人に「人生はうなぎどんぶりやぞ」と説き、なぜ「屁」が笑いになるのかを考察。さらに、ドローン宅配されるピザの冷え具合を慮り、ベーシックインカム待望論に疑義を呈す……。妄想と現実の狭間で、時に怒り、時に涙しながら、人の世の不条理と栄枯盛衰を綴る、天才コラムニスト・ブラックマヨネーズ吉田敬の哀愁漂う猛毒エッセイ58篇!

『黒いマヨネーズ』

『こころ』

夏目漱石 【集英社】

学生の私が尊敬する「先生」には、どこか暗い影があった。自分も他人も信じられないと語り、どんなに親しくなっても心を開いてくれない。そして突然、私の元に「先生」から遺書が届く。そこには、「先生」から人生の全てを奪った事件が切々と綴られていた。親友と同じ人を好きになってしまったことから始まる、絶望的な悲劇が──。人間の本質を見据え、その真実の姿を描ききった、漱石の最高傑作。

『こころ』

『推し、燃ゆ』

宇佐見りん 【河出書房新社】

逃避でも依存でもない、推しは私の背骨だ。アイドル上野真幸を”解釈”することに心血を注ぐあかり。ある日突然、推しが炎上し──。第164回芥川賞受賞作。

『推し、燃ゆ』

『こちらあみ子』

今村夏子 【筑摩書房】

あみ子は、少し風変わりな女の子。優しい父、一緒に登下校をしてくれる兄、書道教室の先生でお腹には赤ちゃんがいる母、憧れの同級生のり君。純粋なあみ子の行動が、周囲の人々を否応なしに変えていく過程を少女の無垢な視線で鮮やかに描き、独自の世界を示したデビュー作。書き下ろし短編「チズさん」を収録。太宰治賞と三島由紀夫賞をW受賞。

『こちらあみ子』

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